
ここでは過去にWIDEプロジェクトがメンバー向けに発信してきた主な活動報告をダイジェストでご紹介します。発信当時の内容に加え、新たな動きや状況の変化に応じて随時追記・更新していきます。
生成AIの普及により、データセンターはけた違いの電力を必要とし始めています。しかし電力網の増設には、通信網の約100倍のコストと約10倍の時間がかかります。そこで、安価な電気のある場所にAIの「学習」を任せ、その成果だけを安価な通信で各地へ届けるという発想が生まれました。電力と通信、さらには建物までを一体で整える「ワット・ビット・シェル連携」は、日本のデジタル基盤を支える新たな国家戦略になりつつあります。ここでは、その全体像を抜粋して紹介します。
今やほとんどすべての産業がデジタルシステムに依存し、生成AIがこれを急加速させている。デジタルインフラは電力の存在が前提であり、その結果、現在の我々のデジタル経済およびデジタル基盤に依存する物理経済を維持するためには、「デジタル/サイバーインフラに関する電力経済安全保障」を実現する必要がある。我々は、デジタル/サイバーインフラを活用し、“More from Less by Bits over Watt” を実現しなければならない。
DXの推進は全産業・社会のエネルギー効率の向上を実現し、結果的に、GXの実現に貢献する。つまり、デジタル/サイバーインフラの重要コンポーネントであるデータセンターインフラを整備することは、データセンターの総電力消費量が増加しても、我が国の総地球温暖化ガス排出量の削減には必須の施策であると言えよう。
昨今の生成AIの爆発的ブームは、大量のGPUを投入し、大量の電気を消費する時代をもたらした。AIは「学習」にも「推論」にも、これまでとは桁違いの規模の電力需要を必要とし、電力を意味するワットのシステム(電力系統)と、通信を意味するビットのシステム(通信基盤)を一体的に整備する必要性を発生させた。電力系統の敷設に必要な時間とコストは、通信基盤と比較して非常に大きく、コストで100倍程度、時間でも10倍程度になってしまう。そこで、AIの「推論」と「学習」を分けて行う構想が自然に出てくる。「学習」は遅延要求が緩いので物理的にユーザから遠い場所にサーバが存在しても問題はないが、「推論」は遅延要求が厳しいので、物理的にユーザに近い場所にサーバが存在しなければならない。「Eye Ball(ユーザの目玉)の近くで推論、遠くで学習」である。この階層構造は、コンテンツの配信や検索サービスを実現するCDN(Contents Delivery Network)と類似した要求を満たすものである。
超大規模化が加速している生成AIサービスにおいては、コンピュータネットワーク上の公開データは10%程度であり、残りの90%は制限付きの非公開データと報告されている。組織の機密データ等の非公開データは公的データの総量と比較すれば小さなデータであるとともに、Public AIのプロバイダに提供を制限すべきデータが多い。このような、データの保持者が利用者と利用法を管理・統制可能な、データ主権が確保された環境を “Capability of Data Sovereignty”(データ統治能力)と呼ぶ。
この小さな私的データ(Private Data)を用いて生成する言語モデルはSLM(“Small” Language Model、小規模言語モデル)と呼ばれることがある。半導体技術のパフォーマンスの指数関数的な向上が継続しており、初期の生成AI登場時に必要だったサーバ群は、もはや単体あるいはコンテナ程度の高性能サーバで実現可能な状況となっている。これにより、私的組織が所有するデータを外部組織/プロバイダに晒すことなく、組織に閉じた言語モデルの作成が可能になっており、今後の私的小規模言語モデル(Private Small Language Model)の生成と利用が加速すると考えられる。
データセンター設置に求められるScope 3のEmbodied Carbonは、主に初期投資に関係するのでBS(Balance Sheet)に大きく関係する。特に生成AIの学習用の大規模データセンターは、その建設・構築に大量の物理資源とエネルギーを消費してしまう。したがって、賢いシェル(殻・外躯)の新規構築と既存施設の再利用を考えるべきである。ワットとビットの連携に加えて、“シェル”の連携である。
具体的な成功事例がフィンランドにある。元製紙工場をシェルとして利用したデータセンターである。事業撤退により残されたこの製紙工場は、頑丈でシンプルな外躯を持ち、数百MWの100%再生可能エネルギーによる電力供給源と受電設備、大量の綺麗な水と温水の排水環境、さらに物流環境を既に備えていた。あとは、相対的に敷設コストの小さい光ファイバーを、都心ヘルシンキと国際海底ケーブルの陸揚げ局まで整備すればよいという環境だったのである。同様の日本でのプロジェクトとしては、①ソフトバンクとKDDIによるシャープの堺市の液晶工場をデータセンターとして再利用する企画、②ハイレゾ社の佐賀県玄海町や香川県の廃校を利用した企画が挙げられる。
自家用自動車の実稼働率は平均で5%程度とされ、95%の時間は利用されていない遊休の時間と捉えることができる。その間、EVが電力ネットワークに接続されていれば、デマンドレスポンス用の蓄電池資源となり得る。EVの蓄電池は、電源グリッドにとって大容量の“超分散型”の発電機であり蓄電池である。しかも、物理的な場所を需要の状況に応じて動的に変化させることも不可能ではない、モビリティー機能を持った大容量分散型蓄電池としての“新しい”利用可能性を持つ。
2000年に日本政府が掲げたIT社会の実現を目指す国家構想がe-Japanである。「IT基本法」を制定し、デジタル化社会を実現する構想で、なかでも超高速インターネットインフラの整備、インターネットサービスの低廉化・利便性向上が、NTTの既存インフラを利用するなどして、民間主導で推進された。
それから14年後、2024年10月に公表された「デジタルインフラ(DC等)整備に向けた有識者会合」の中間とりまとめ3.0では、「ワット・ビット連携」と称される電力インフラと通信インフラの連携によるインフラ整備が提言された。「ワット・ビット連携」とは、簡単には「特に、AIやデータセンターの電力需要の増加に対応しつつ、脱炭素化を加速させるため、脱炭素エネルギー源の近くにデータセンターを設置し、通信インフラの整備を行う」である。電力グリッドの構築に必要な金銭的コストと時間は、通信線のそれと比較して桁違いに大きくなる。ここでは、e-Japanで実現した通信インフラの構築と同様のことを、電力インフラにおいて行うための環境整備を、一つの解決法として推奨している。
超高速インターネットがe-Japan 1.0だとすると、DX/GXを実現するデータセンターネットワークの整備はe-Japan 2.0と位置付けることができよう。電力を意味するワット(Watt)、通信を意味するビット(Bit)に、躯体を意味する「シェル(Shell)」を加えて、『ワット・ビット・シェル連携』と呼べるかもしれない。さらに、e-Japanでは考慮点にならなかった項目として、国際/グローバル海底ケーブルと衛星システムが存在する。データセンターネットワークはグローバルに展開されるのが前提であり、ワット・ビット連携においては、国際・グローバルインフラの整備も重要な施策の対象となる。
【 2026年6月 】