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ここでは過去にWIDEプロジェクトがメンバー向けに発信してきた主な活動報告をダイジェストでご紹介します。発信当時の内容に加え、新たな動きや状況の変化に応じて随時追記・更新していきます。

#02 COVID-19とインターネット

新型コロナウイルスCOVID-19の影響によって世界的に人の移動や密集が制限された中、インターネットの役割はますます多様かつ重要になっています。生活や経済、教育、行政など、あらゆる側面でインターネットを活用したニューノーマルが生まれている一方、新たな技術的・社会的課題も見えてきました。WIDEプロジェクトではこの現状を踏まえ、これからの新しい生き方を作っていくために我々が取り組むべき課題と行動計画について議論しています。

本論では、COVID-19下でのインターネットインフラの変化について現状と問題点を解説するとともに、特に行政のICT化とその課題についてWIDEが着目しているポイントをご紹介します。
(本記事は2020年度WIDE研究報告書の一部を抜粋したものです)

1. COVID-19感染拡大によるインターネットインフラの変化

まず、2019年以降のインターネットトラフィックの変動やインフラへの影響について、利用者別に概況を見てみる。

個人ユーザが利用する固定ブロードバンドは平日昼間のトラフィックが増加し、モバイルについては、一部にリモートワーク関連で法人需要が伸びたものの、全体としては外出自粛の影響で利用減となっている。企業では、3月以降リモートワークが急増しオフィスの専用線のトラフィックは減少したが、VPNやデータセンター接続のトラフィックは増えた。

大学はほぼ全ての授業がオンラインとなり、キャンパストラフィックが激減。小中高においては、ICT環境は教室内専用が普通で、ほとんどの学校ではオンライン授業以前に生徒や保護者との連絡すら難しい状況であった。一方、外部のオンライン教育サービスでは、事業者が急増する負荷に対応できずサービスが利用できないなどの問題が報告された。

ISPに関してはトラフィックパターンの変化により輻輳が散見され、中でもフレッツ網のPPPoE終端装置での輻輳が目立った。ユーザ側にある古いWiFi機器などの宅内装置やマンションのVDSLなどの構内設備も原因となった。

これらトラフィックパターンの激変により、個別のサービスや回線の逼迫が散見されたものの、さまざまなレベルでサービスや回線増強などの対応が取られ、全体として大きなトラブルもなく需要を満たす事ができたと考えられる。日本ではコロナ以前から2020年を目指して回線増強を図っていたことも幸いであった。

これを機に、今までオンライン化に二の足を踏んでいた報道、教育、交通、政治までが積極的にオンライン化を進めている。例えば教育のオンライン化を考えると、デジタル格差が教育格差に直結するため、これまでなかなか進まなかったインターネットのユニバーサルサービス化の議論も必要になる。国としてのビジョンやIT戦略に如何に組み込んでいくかを、グローバルなビジョンと共に考える必要がある。その際、政策に落とし込むには具体的な数値目標が必要である。

2. 進むオンライン化と遅延の問題

ZoomやWebex meetingsなどの汎用ビデオ通話アプリケーションが爆発的に普及し、企業のテレワークからZoom飲みまで、私生活での活用も含めたオンライン化が進んだ。芸術や娯楽分野でも新たなアプリケーションが多数誕生している。例えば、遠隔地のメンバーを結んで音楽を演奏できるアプリケーションとして、ヤマハが提供しているSYNCROOM(旧NETDUETTO)は、プロアマ問わず活用され、オンラインライブや創作活動に用いられている。またソフトバンクが提供するクラウドゲームサービスGeForce NOW Powered by Softbankは、非力なモバイル端末でも最新の高度なゲームをプレイできると注目された。

WIDEプロジェクトでは、こうしたオンラインサービスを利用するにあたり、特にコミュニケーションの品質や目的達成に影響する要素として「遅延」に着目した議論を2020年8月の夏合宿で行った。

■ WebRTCによる低遅延アプリケーション開発
COVID-19により多くの業種でオンライン化が急速に進んだ際、オンライン診療や学習の個別指導システムにおいてSkyWayなどのWebRTC開発環境が利用された。SkyWay はNTTコミュニケーションズ株式会社が提供するWebRTC開発基盤である。無償で提供されるSDKを利用して、プラットフォームを問わずブラウザ内で動作するビデオ通話アプリなどを、サーバなどネットワーク上のリソースを準備せずに開発できる。また商用化する際には必要に応じた課金により、サーバなどのリソースを気にすることなくスケーラブルに展開できるサービスである。

WebRTCを用いたアプリケーション開発のメリットは、PCやスマートフォンといったデバイスやOSの差異を吸収できることにある。また、通信のシグナリングに必要なTURNサーバなどのインフラ構築や運用をクラウド側にオフロードできる開発速度、さらにはネットワークの運用やスケーラビリティに関する知識がなくとも参入可能だった面も大きい。そのため、汎用のビデオ通話アプリの持たない機能を実装した数多くのアプリケーションが続々とリリースされた。

■ 遅延の最小化とネットワーク
先述したアプリケーションに求められるのが低遅延環境の実現である。そのためには家庭内のWiFi環境からバックボーンネットワークまでEnd to Endでネットワーク全体の品質が問われる。WIDEが取り組んでいるIPv6への移行が最も望ましいが、現在のIPv4との混在環境においてはアプリケーション側でもEnd to Endの通信を支える技術が必要である。

5G時代を迎え、遅延を最小化するアプリケーションの開発時には、Peer to Peerでの通信だけでなく、計算機資源をどこに配置するかなど、ネットワーク的地理的位置に関する設計は今後も重要になるだろう。

こうした遅延やリソースの配置は、遠隔医療や遠隔操作といった遅延に対する要求の高いサービスの発展に伴い議論が進むと考えられる。一方でアプリケーション開発者は、下位レイヤーの制約を受けず自由なアプリケーション開発をしても、こうした超低遅延の恩恵を受けられることが望ましい。

3. COVID-19に関する政策

COVID-19のまん延は行政や国際連携のDXに大きな変化をもたらした。新技術が続々と導入される中、コンタクトトレーシング(接触追跡)とプライバシー問題といった、インターネットのあり方に深く関わる課題も生じている。WIDEプロジェクトでは2020年8月、こうした都市・地方行政の変容に伴う課題について議論した。

■ 行政の変容と課題
東京都のCOVID-19対策を例に取ると、宿泊療養施設でのロボット採用、健康管理のためのアプリの導入といった新たな技術が活用されている。COVID-19の感染者数などのデータ集約とオープンソース、オープンデータとしての公開も行われている。また、感染防止徹底宣言ステッカーやステッカー設置店のオープンデータ化が行われている。このような5Gの活用や、ニューノーマルで加速するDXを背景に、市民や行政の連携を改めてデザインする必要もある。そのファーストステップとして、個人が持っている技術や専門性を公共のために活用できる枠組みが考えられる。

議会におけるデジタル化の可能性についても議論された。議員が民意として把握する情報の多くは、リアルの世界で繋がりのある層からの情報が多い。一方で、インターネットはサイバー空間であり、このサイバー空間の民意をバランスよく、行政がどのように情報を入手するのか、という課題がある。行政の人材に対するIT教育も必要だ。上記のような課題に取り組むことで、都政は、東京でニューノーマル時代の行政のロールモデルを作り、その後全国の地方行政や国政へ展開するという大きな可能性を持っている。

■ 各国の政策動向とコンタクトトレーシング
社会情勢として、廃業する中小店舗や企業、特定の国家間の緊張状態等、COVID-19と同時期に社会や経済の分断が起きていた。COVID-19はきっかけに過ぎず、これらは今に始まったものではないと言える。COVID-19で浮き彫りとなった国際連携の背景の一つとして挙げられるのが、サプライチェーンにおける中国のボトルネックである。また、武漢の病院に導入されたHuawei遠隔診療技術からは、容易にデプロイできるモジュールの集合という中国が有する技術が明らかになった。

感染症対策・コンタクトトレーシングと関わりの深いテーマとして、データやプライバシーがある。このテーマに関しては、Data free flow with trust(DFFT)をはじめとする、個人データに関する国際的なデータ流通の枠組みについて議論がされた。データやプライバシーに関して議論する際に「トラスト」の定義が国家やステークホルダーによって異なるという課題がある。トラストとは自由なデータの流通だと主張する層、特定の信頼できる国家間で連盟を求める層、個人のプライバシーを自身で管理できるようにすべきとする層、ガバメントアクセスを求める層などグラデーションがある。コンタクトトレーシングはクラスタの早期発見と個人の対策準備の支援のためである。一方で、行動履歴、収集分析、個人の行動監視・制限が徹底的にされている国家もある。一度収集された情報が、感染症対策に限らない目的で使用されてしまう危険性も否めない。

国境を超えた人の行き来がある程度制限されている現在、コンタクトトレーシングは各国が独自のシステムを開発・運用している。しかし、今後ワクチン接種者が増え、人々の移動も増えた場合はどのように変容するだろうか。

この課題に関して、システムの開発と運用は分けて考えるべきである。開発という観点では、コンタクトトレーシングアプリにおいて、Apple/Google方式であればトークンに互換性があると言えよう。一方でその運用は国によって大きく異なる。日本では、陽性患者は自ら保健所へ連絡をとるという形が要請されている。一方で、自宅待機を監視している国もある。このようなシステムの相互運用性は、データ上の互換性という観点より、同じ価値観を共有する国同士において起きる可能性がある。また、韓国や中国は全体主義的な運用で、ヨーロッパと比べても日本のモデルは比較的個人に寄せたアプローチである。巨大な中央政府が管理するシステムには、きちんとした監視の目が必要である。行政からの照合や関与のバランスをよく検討し、透明性のある環境で議論していくべきである。そのような観点では、日本は政府と市民の間の緊張感がヨーロッパと比べて低い。一人ひとりがプライバシーやトラストを考え、主体的にアクションがとれるよう、教育が必要である。

■ 今後の展望
以上の議論を踏まえて、我々WIDEとして取り組むべき課題を提案する。行政のICT化を推進する中で、法律のボトルネックがあるという課題においては、我々技術者としても、どこにボトルネックがあるのかを把握する必要がある。そのためにWIDEの専門家と法律の専門家が交わる場所をワーキンググループなどの形で継続的に設けることが考えられる。サイバー空間におけるトラストの課題や、その教育の必要性は、今後WIDEでも積極的に議論していくべき内容になるだろう。コンタクトトレーシングに関しては、現在個人に寄せたアプローチをとっている日本として、個人の安全のための個人データ共有に国際貢献していくことが期待される。データの所有権と制御技術、分散管理、安全な流通の技術の設計・開発に引き続き課題がある。WIDEとして、個人のプライバシーを守った上で、感染症対策を実現するために必要な技術を社会に提案していく必要がある。

4. おわりに

COVID-19の影響によって、遠隔コラボレーションなどの品質を向上するための技術開発がさらに注目され、より臨場感の高いコミュニケーション実現が期待されるようになっている。在宅が社会活動の基本になったことにより、これまで普及が進まなかった遠隔勤務や遠隔授業の運用技術や活用ノウハウが大きく発展した。また遠隔診療などへの期待も高まっている。

しかし一方で、情報の管理と国際連携には大きな課題を残している。感染症予防という観点では感染者の発見や追跡が重要であるものの、個人情報やプライバシーを守りつつ必要な情報を活用するための技術は十分とはいえない。また、国際連携を進めるにあたっては、感染症の情報のみならずインターネットを含む様々な分野での国際協力が必要である。

今後WIDEでは、アプリケーションサービス事業者と連携してより高品質なコミュニケーションを実現する技術の研究開発を進めていくべきである。さらに、個人の情報を守りつつ行政の電子化を実現するための情報基盤の設計や運用についても、国内外において我々の知見が活用できるはずである。

【 2021年9月 】