「デジタルインフラストラクチャの未来とWIDEプロジェクトの新たな使命」
WIDEプロジェクトは、1988年の発足以来インターネット技術の発展と普及に貢献してきた。2025年は、デジタルインフラストラクチャを取り巻く環境が大きく変化し、新たな課題と機会が生まれる年となった。ここでは、デジタルインフラストラクチャの現状と課題を概観し、WIDEプロジェクトが2025年度に取り組むべき新たな使命を議論する。
デジタルインフラストラクチャは、コンピュータ、デジタルデータ、インターネットという3つの要素に加え、それを支える電気エネルギーによって構成される。一方、現代社会において、全ての重要インフラストラクチャは、もはやデジタル技術を基盤としており、その持続可能性を考慮すると、電気エネルギーを含めたインフラストラクチャ全体を「デジタルインフラストラクチャ」として合成的に捉える必要がある。
サイバーセキュリティ
WIDEプロジェクトは、地震などの災害時におけるインターネット復旧活動や、そのための技術開発に長年携わってきた。インターネットの持続的な運用と障害からの回復は、サイバー攻撃への対応だけでなく、サイバーセキュリティ全体のスコープにおいても重要な要素となる。2025年には、国としてサイバーセキュリティに関する新たな体制が整備される。WIDEプロジェクトは、これまで培ってきた普及・持続性・耐障害性を備えた運用ノウハウに加え、ダークネットやDNSなどの安全性を通じて、インフラストラクチャ全体の安全性向上に貢献してきた。
AI
AIへの急速な期待と発展は、デジタルインフラストラクチャ全体にとっての新たな要求となり、計算処理、データ流通、ネットワーク技術は、AIの需要に応じた進化を遂げることが期待されている。その意味で、WIDEが目指してきた、自律分散システムとしてのコンピュータアーキテクチャは、AIに最適化された新しい仕組みとして、提案し直したほうが良いだろう。特に、データセンターの分散や、データセンターにおける計算システムの設計にはWIDEプロジェクトの研究者・エンジニアが活躍しているところである。また、社会におけるAI学習・推論システムの急速な需要増加は、データセンターやデバイスなどの自律分散処理システムとして、インターネットの新たな構成の要素になる。
ロボット
WIDEプロジェクトが参加してきたRFIDの開発から発展したIoTチップやデバイスは、十分な計算機能とメモリを搭載した自律ロボットシステムへと進化してきた。NTNやモバイルなどの地理的カバレージの完全性と共に、ドローンや自動運転車の発達は、2025年に新たなシステム環境を構築する。これを支える自律的な分散システムアーキテクチャは、センサーデータに基づいた新たなサービス体系を必要とする。WIDEプロジェクトは、1995年からのインターネットカー研究開発以来、この分野の技術開発と標準化に貢献してきた。日本が誇るロボット文化と才能が、この分野で更なる貢献を果たすことが期待される。
海底ケーブル
AI3やSOI Asiaを通じて東南アジア諸国の大学を接続してきたWIDEプロジェクトは、ARENA-PACとしてアジア地区での新たな展開を開始した。2025年からの5年間には、アジア太平洋地域や北極海に予定されている海底ケーブルとの連携を深め、アジア太平洋地域のみならず、EU、アメリカ、南米を結ぶ各国のREN間を相互接続する計画が始動する。グアム、インドネシア、フィリピン、シンガポール、マレーシアに加え、東ティモール、ミャンマーのRENとの接続も計画されており、大学の研究・教育連携だけでなく、アジア太平洋地域におけるデジタルデバイド解消にも貢献する。
WIDEプロジェクトの未来
昨年、WIDEプロジェクトの前身であるJUNETの40周年イベントが開催された。2026年には、WIDE研究会発足40周年を迎える。この間、WIDEプロジェクトはインターネットとデジタル技術の発展に貢献してきたが、今後は次世代、次々世代が中心となって活動を活性化させはじめた。ファウンディングメンバーの長年勤めてきた職からの引退が始まるなか、WIDEプロジェクトは、これらの新世代メンバーを中心にこれらの新しい活動に注目していきたい。この新しい活動に関心をもっていただき、新たなご指導とプロジェクトへの引き続きの活発な参加をお願いしたい。
2025年3月