WIDE

代表挨拶

WIDE プロジェクト代表
江﨑 浩
WIDE プロジェクト代表 江﨑 浩

はじめに

2020年9月にデジタル庁が起動しました。デジタル庁の準備には、ファウンダーの村井純教授をはじめとして、多くのWIDEプロジェクトの関係者が、その設計と実装に深く関与されました。小職も、9月1日からChief Architectとして尽力させていただいております。まさに、日本の政府と自治体さらに、全産業のデジタル化を先導・牽引するコアの組織としての役割を果たさなければなりません。

デジタル庁の役割は、これまでの、デジタル化の次の段階であるオンライン化によるすべてのシステムのデジタルによる相互接続環境の実現・実装になります。これは、2000年頃のe-Japan構想が日本中のコンピュータをブロードバンドのインターネットに接続する環境の整備だったのですが、この頃すでにWIDEプロジェクトでは、IPv6の役目は、全産業の相互接続と全デジタルデバイスのIP化と相互接続環境の実現と認識し、IoT(Internet of Things)の実現に関する研究開発活動に着手していました。これが、正に、前期の日本における科学技術政策である第5期 総合科学技術基本計画の方向性よして打ち出された「Society5.0」になります。小職も委員として参画させて頂きました第6期 科学技術・イノベーション基本計画では、第5期の科学技術基本計画の総括として、選択と集中、コロナ禍で明確となったSociety 5.0が実際には実装されていなかったことを確認・認識、「多様性の尊重」と「Society 5.0の“実”実装」が大きな方向性として打ち出されました。

さらに、社会イノベーションの実装・実現には、科学技術だけではなく、文系の知見を取り込んだ「総合知」が必須であるとの認識のもと、文理融合の重要性が認識され、科学技術に関する研究開発に文系の力が必要であるとの認識がされました。まさに、WIDEプロジェクトの目的は、新しい技術を用いた社会のイノベーションであり、そのためには、マルチステークホルダ環境での議論と実装が必要であるとの認識と合致するものであると考えます。

もう一点、WIDEプロジェクトの理念が、デジタル庁のミッションに埋め込まれたのは「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」です。主役は「人」であり、人の活動をデジタルネットワークが支援する。さらに、デジタルネットワーク環境を評価するのは、エンドユーザであり社会である。これは、WIDEプロジェクト起動時からのミッションであったと認識しています。さらに、デジタル庁のビジョンは、「Government as a Service」と「Government as a Startup」です。

「Government as a Service」は、各省庁の壁を乗り越え、仮想的な組織を創造し目的を実現する形態を目指すというものです。各組織で閉じた排他的な環境ではなく、すべての組織の属する人が自由に交流・活動するプラットフォームを形成して、各組織を横断するチームを編成するというビジョンです。また、もう一つのビジョンである「Government as a Startup」は、動きながら変化・進化しようという考え方になります。このどちらもWIDEプロジェクトのビジョンと一致しています。

9月にデジタル庁での「仕事の進め方」を取りまとめてみました。

(1)プロジェクトベースで。
ステークホルダ(not only in デジタル庁)が集まり、課題を共有、必要な人を集めて、適切で戦略的な目標を成果を設定し、目標・課題を解決して、もとの仕事に戻る。
BoF: Birds of a Feather(翼を持った鳥{専門家}の集まり)
(2)“Small Start, Scale Fast“(=着眼大局、着手小局)
素早く(fast)大きく(scale)できる構造(architecture)を意識して、小さな規模(small)で着手・起動(start)する。動くもの(running code)を信用・尊重する。
最適化よりも、適合性・対処性・迅速性
(3)ユーザ・ファースト
  1. すべてのEnd-Userのためのデジタル化と適切なユーザーインターフェース(UIの提供)を提供する。
  2. 多様性を前提にした複数の選択肢を提供する。
(4)デジタル化(DX)は手段
デジタル化はツール(手段)であって、その目的は、手続きの効率化によるすべての国民業務(含 公的組織職員)の高品質化とサービスの拡大。
  1. 本来業務の品質向上
  2. 新サービスの創生
(5)双方向性
  1. End-to-Endに基づいた、すべての人・組織が、サービスの提供者でありサービスに受容者となることを可能にする構造・規則であること。
  2. 人材の流動性を推奨・支援する。回転ドア(Revolving Door)環境の実現。
(6)グローバル性
グローバルな技術の整合性と統治の連携を忘れずに、グローバルな空間の主要ステークホルダとなることを目指す。
(7)先駆的な見本&コアになる
  1. アーリーアダプターとして、BCP(Best Current Practice)となる。
  2. 構築する基盤は、マルチステークホルダ・インフラストラクチャーの重要コアの一つになる。
(8)動くものを信用&尊重、動かす
動かすための「内製化」であり、動くものを・動かせる人を信用し、双方向での連携を推進する。
(9)自律・分散・協調
自律性と専門性を持った官と民の人材が、プロジェクトベースで分散協調して仕事を進める。文鎮型コミュニケーション環境による情報共有と協調を実現。
(10)一人も取り残さない
Guaranteeではなく、Best-Effortの姿勢で、安心せず上限のない品質向上を目指す。一つの方法ではなく。多様な方法ですべての人へのサービス提供を目指す。

これは、インターネットの基本的な考え方・進め方ですし、WIDEプロジェクトにおける仕事の進め方です。特に、「グローバル性」は、21世紀における政府の政策において、自分の国に閉じない政策であり施策であることとして、デジタル庁における重要な方向性として「デフォルト化」を目指しています。

コロナ禍によるパンデミックは、社会の政治・経済・社会行動を大変革させつつあります。社会のデジタル化、そしてインターネット技術を用いた各組織の個別システムのオンライン化とその国境を越えたグローバルなネットワーク化、すなわち「オンライン社会の存在を前提にしたサイバー・ファーストの社会産業インフラ」への進化が加速されています。地球上のすべての人、すべての産業、そして、すべてのデジタル機器を、“透明に(Transparent)”に相互接続させることで、これまで存在していない創造的なサービスを創生・実現するビジョンです。WIDEプロジェクトでは、すでに、IoTの世界観が、仮想マシンの登場と普及によって、IoF(Internet of Function)の段階に進化し、IoFの世界を実現するための研究開発にも着手していました。サービスとハードウェアのアンバンドルであり、Un-Wire-ingされたグローバルシステムへの進化です。

コロナ禍は、差別と格差の拡大など、コロナ禍が発生する前の社会が抱えていた問題を拡大・顕在化させたとともに、自然の力の前には人間・人類の力は儚いものであることなどが認識されることとなり、持続的な発展、すなわち、SDGs(Sustainable Development Goals)の重要性が強く認識されることになりました。SDGsの実現にあたってはインターネットのアーキテクチャを活用・覚醒させなければならないと考えます。「コンパクト&ネットワーク」と、環境省による「地域循環共生圏」の考え方は、各地域にコンパクトでSDGsを実現する都市・街を創り、それをネットワーク化するという、自律分散型ネットワークの創成であり、デジタル田園都市構想にもつながるものです。自然災害などによる非常事態への対応能力とリスク管理能力を持ちつつ、グローバルなネットワーキングが可能な都市つくり・街つくりを目指すというものです。

また、第6期総合科学技術・イノベーション基本戦略とデジタル庁の基本計画では、インターネットが社会に広く普及し、さまざまのインターネットを前提としたサービスが展開されている中、「トラスト(Trust)」品質の向上が重要課題として、認識されました。

グローバルな研究開発ネットワークを自身で設計・実装・構築・運用するという知見と経験を産みだし創生する環境の維持と発展の重要性を改めて強く確認し、メンバー組織のみなさんと共有しているWIDEプロジェクトの責任を再認識しなければならないのではないでしょうか。

WIDEプロジェクトは、メンバー組織の皆様との産学連携コンソーシアムとして運用されています。企業における「目的基礎研究」でもなく、独創性・独自性を要求する「純粋基礎研究」でもない、「実践的基礎・応用研究」の環境を提供することで、従来の研究組織にない成果を創出してきました。さらに、常に、「グローバル」な視点で、システム全体と個別システムを捉える。これは、WIDEプロジェクト特有のプロジェクト統治モデルであり、「遺伝子」であり、今後もこの「遺伝子」を維持・発展、そして進化させなければならないと考えていますし、さらに社会に貢献する責任がますます増していると考えています。

これまでのWIDEプロジェクトの活動にご参画ならびにご支援いただきましたすべての皆様方、組織の方々に感謝と敬意を表しますとともに、ますますのご参画・ご協力・ご指導・ご鞭撻をお願い申し上げます。皆様方との協力・連携を礎として、コロナ禍を大きな契機に変貌を遂げる(しかし、我々がこれまで共有していた方向に)グローバルな社会インフラの実現に向けた協調活動の拡大を皆様と推進できることを期待しております。

2022年3月