WIDE

代表挨拶

WIDE プロジェクト代表
江﨑 浩
WIDE プロジェクト代表 江﨑 浩

2023年10月に京都で開催されたIGF(Internet Governance Forum)では、「私たちの望むインターネット〜あらゆる人を後押しするためのインターネット〜(The Internet We Want - Empowering All People)」、そして、2024年12月にアラブ首長国連邦リアドでは「Building our Multistakeholder Digital Future」がメインテーマに掲げられました。

我々は、多様な技術と多様な組織が運用する自律ネットワークを、共通の統一技術(TCP/IP)をコア基盤として、相互に接続し、地球上に共有のデジタルインフラストラクチャー(インターネット)を構築しました。最初の日本でのTCP/IPネットワークは、JUNETであり、2024年に40年の誕生日を迎えました。 JUNIETは、Japan UNIX Networkであり、UNIXを共通のOS基盤としたデジタル・コンピュータ・ネットワークでしたし、そのネットワーク構造はTCP/IPをOSとしたUNIXシステムと同じ構造・アーキテクチャでした。JUNETは世界の先進的な研究者が運用するネットワークと相互接続されました。当初から、地球を取り囲むこのグローバルなデジタル空間に、多様なコミュニティが形成され、国境を含む地理的制約を受けることなく、個人や多様なコミュニティや組織が自身の意志で自由にこのデジタル・コンピュータ・ネットワーク(インターネット)を利用することを目指していました。近年のTerminologyでは、マルチステークホルダでの世界インフラの運用と管理と表現することができるでしょう。このデジタル・コンピュータ・ネットワーク空間は、地球の表面だけではなく、上空から大気圏外、さらに月など宇宙へと、これまでは人が定住・カバーすることのなかった空間へと拡大しようとしています。

2024年11月には、ハイパーテキストの提唱者でもある Ted Nelson博士の来日が実現し、計算を行うのがコンピュータんも仕事であるという1960年代において、ディスプレイの意味、データの相互参照(ハイパーリンク)による、人の創造的活動の刺激・支援をコンピュータ+ネットワークが実現するという、インターネットの本質を発見・提唱された歴史を、共有させていただきました。インターネットは、デジタルデータの操作を行い(一つの操作が計算である)、このデータを自由に参照・移動・利用するためのネットワーキング機能を提供したということを、再確認することができました。 これは、近年の 人工知能(AI)の社会・産業活動に対するインパクトの本質ともつながる重要なポイントであったのではないでしょうか。

ここ数年のキーワードの一つである「生成AI」に関する研究開発や事業展開は、2024年にはますます急拡大することになり、日本の「エネルギー基本計画」をも大きく変更させるに至りました。 AIに代表されるデジタル社会の基盤となる半導体産業およびデータセンターに代表されるデジタルインフラ産業は、今後の社会・産業における効率化だけではなく全社会・全産業構造変革と進化に必須の産業であり、これらの産業の拡大に伴う我が国の総電力消費量の増加は許容せざるをえず、さらに、エネルギーインフラの増強と通信インフラとの戦略的な連携整備の必要性が提言されるに至りました。生成AIに代表される先進的デジタル技術は、既存(AS IS)システムの効率化を加速させるだけではなく、デジタル・ネイティブの新しい(TO BE)システムを創成させることになりますし、TOBEシステムの創成はWIDEプロジェクトの責任の一つではないでしょう。すなわち、私たちは、インターネットをさらに進化させ、さらに最大限に利用可能として、AS ISだけではなく、TO BEのシステム・産業の進化を持続させなければなりませんし、それなしには地球温暖化に対処できなくなってしまうと考えなければならないのではないでしょうか。

生成AI は、これまでも大きな問題と認識されていた 偽情報の爆発的な増加とその認識・認証が急激に難しくなることが、2024年に行われた多くの選挙においても広く認識されることになりました。11月の米国大統領選挙や兵庫県知事選挙によって、広く多くの人にその問題点が共有されました。我々は、生成AIの良い面と悪い面の両方を認識し、生成AI との共存を前提とした個人と社会のあり方を模索しなければならない状況にあります。

2020年9月に起動したデジタル庁の活動には、ファウンダーの村井純教授をはじめとして、多くのWIDEプロジェクトの関係者が、その起動に関与するとともに、現在も深く関与しましています。これは、2000年頃のe-Japan構想での日本中のコンピュータをブロードバンドのインターネットに接続する環境の整備の実実装であり、WIDEプロジェクトは、「全産業の相互接続と全デジタルデバイスのIP化と相互接続環境の実現と認識し、IPv6の研究開発とその社会展開をIoT(Internet of Things)の実現に関する研究開発活動とともに進めてきました。日本におけるIPv6の普及は、有線環境で80%を越え、携帯電話環境でも70%に届こうとしており、一つの節目を迎えました。WIDEプロジェクトが中心となって設立したIPv6普及高度化推進協議会、IPv6社会実装タスクフォース(前身はIPv4アドレス枯渇対応タスクフォース)を、2024年3月に終結させました。

コロナ禍の中、「オンライン社会の存在を前提にしたサイバー・ファーストの社会産業インフラ」への進化が、「デジタル田園都市国家構想」として、岸田政権によって提唱されました。地球上のすべての人、すべての産業、そして、すべてのデジタル機器を、“透明に(Transparent)”に相互接続させることで、これまで存在していない創造的なサービスを創生・実現するインフラビジョンです。コロナ禍は、差別と格差の拡大など、コロナ禍が発生する前の社会が抱えていた問題を拡大・顕在化させたとともに、自然の力の前には人間・人類の力は儚いものであることなどが認識されることとなり、特に、持続的な発展、すなわち、SDGs(Sustainable Development Goals)およびカーボンニュートラルの重要性が強く認識されることになりました。SDGsの実現にあたってはインターネットのアーキテクチャを「すべての社会・産業インフラ」に適用・覚醒させなければならないと考えます。

WIDEプロジェクトは、インターネット技術のエキスパート集団として、分断(=De-Coupling)することなく、新しい時代の宇宙空間を含むグローバルなデジタル空間を、世界中の仲間と協力して維持し、次の世代に引き継がなければなりません。私たちは、日本国内だけでなく地球そして宇宙のさまざまな課題・問題を、デジタル・コンピュータ・ネットワークのエキスパートとして、世界の人々と協力して解決していかなければなりません。

WIDEプロジェクトは、メンバー組織の皆様との産学連携コンソーシアムとして運用されています。企業における「目的基礎研究」でもなく、独創性・独自性を要求する「純粋基礎研究」でもない、「実践的基礎・応用研究」の環境を提供することで、従来の研究組織にないユニークで実践的な成果を創出してきました。さらに、『常に、「グローバル」(さらに宇宙という規模・視点に拡大)な視点で、システム全体と個別システムを捉える』。これは、WIDEプロジェクト特有のプロジェクト統治モデルであり、「遺伝子」であり、今後もこの「遺伝子」を維持・発展、そして進化させなければならないと考えています。

これまでのWIDEプロジェクトの活動にご参画ならびにご支援いただきました すべての皆様方、組織の方々に改めて感謝と敬意を表しますとともに、 ますますのご参画・ご協力・ご指導・ご鞭撻、そして新しい参加者・参加組織のご紹介・ご招聘をお願い申し上げます。皆様方との協力・連携を礎として、新しいグローバルなデジタル社会インフラの実現に向けた協調活動の拡大を皆様と推進できることを期待しております。

2025年3月