WIDE

代表挨拶

WIDE プロジェクト代表
江﨑 浩
WIDE プロジェクト代表 江﨑 浩

コロナ禍によるパンデミックは、2008年のリーマンショックをはるかに超える経済的な大打撃を与えることになるのみならず、社会の政治・経済・社会行動を大変革させることになります。しかし、一方では、社会に展開された情報基盤(特に、グローバルにすべての組織・個人をデジタル・ネットワーク技術を用いて相互接続したインターネット)の存在が、社会・産業活動に致命的かつ破壊的な状況に至ることを回避することに貢献しました。すなわち、社会のデジタル化、そしてインターネット技術を用いた各組織の個別システムのオンライン化とその国境を越えたグローバルなネットワーク化が、コロナ禍による社会・産業の壊滅的崩壊を防止することに大きな貢献を行ったことが広く認識され、今後は、「オンライン社会の存在を前提にしたサイバー・ファーストの社会産業インフラ」への進化が加速されなければならないと考えられています。

当初のインターネットは、大きな複数の研究者で共有されたコンピュータ(=計算機という表現の方が感覚的にも合致する)の相互接続のネットワークからスタートしましたが、半導体技術の発展・進化ともに、持ち歩き可能(Hand-held/Lap-Top/Perm-Top)、さらに埋め込みすら可能な小さなIT機器まで、インターネットに参加するデジタル機器となりました。これを、人々は、Internet of Things(IoT)と呼んでいます。このIoTの世界は、WIDEプロジェクトが 1990年後半から注力した 次世代のインターネットプロトコルとされた IPv6の研究開発と普及にあたって描いたビジョンそのものであり、2000年のe-Japan構想でも我々が共有した方向性です。地球上のすべての 人、すべての産業、そして、すべてのデジタル機器を、“透明に(Transparent)”に相互接続させることで、これまで、存在していない創造的なサービスが創生・実現されるというビジョンです。インターネットの遺伝子が持つ、『“透明性(Transparency)”』は、インターネットが持続的に発展するというSDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)を実現するための、重要な要求条件の1つであると考えていましたし、現在でも、『“透明性(Transparency)”』は、インターネットの持続的な発展にとって、技術的観点から非常に重要な要求条件であると考えられるのではないでしょうか。 我々は、すでに、IoTの世界観が、仮想マシンの登場と普及によって、IoF(Internet of Function)の段階に進化していることも認識し、IoFの世界を実現するための研究開発にも着手していました。広義でのサービスとハードウェアのアンバンドルであり、Un-Wire-ingです。

さて、コロナ禍によって、差別と格差の拡大など、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、コロナ禍が発生する前の社会が抱えていた問題を拡大・顕在化させたとともに、人間・人類のMe Firstであったことと、自然の力の前には人間・人類の力は儚いものであることなどが認識されることとなり、持続的な発展、すなわち、SDGs(Sustainable Development Goals)の重要性が強く認識されることになりました。 このような状況と課題を解決するためには、社会のデジタル化・オンライン化、さらにDXを急加速させなければなりませんし、その実現にあたってはインターネットが持つ持続的な発展にとって重要な要件であるアーキテクチャ(あるいはインターネット遺伝子)としての側面を認識し、活用・覚醒させなければならないと考えます。21世紀型の都市・街のグランドプランとしては、国土交通省による「コンパクト&ネットワーク」と、環境省による「地域循環共生圏」の考え方が提唱されています。まさに、各地域にコンパクトでSDGsを実現する都市・街を創り、それをネットワーク化するという、自律分散型ネットワークの創成です。自然災害などによる非常事態への対応能力とリスク管理能力を持ちつつ、グローバルなネットワーキングが可能な都市つくり・街つくりを目指すというものです。 リスク管理能力の観点から自給自足能力の必要になるが、各都市・街が「Me First」になり、排他的あるいは非対称な関係をその他の都市・街を形成するという考え方ではない、インターネット的な自律分散協調の考え方に立脚しています。

第5期科学技術基本計画で打ち出されたSociety 5.0 に続く第6期の科学技術基本計画のビジョン形成に向けた議論が、2019年に起動され、2020年末にほぼ取りまとめられるに至りました。新しい科学技術基本計画の策定にあたって、WIDEプロジェクトとして、インターネットの存在と進化を前提にした社会インフラの高度化とスマート化を推進するに資するビジョンと具体的な施策を提案させていただきました。インターネットが社会に広く普及し、商用のインターネットサービスが展開されている中、そして、コロナ禍がこれまでの社会と政治の問題を顕在化させる中、インターネットの維持と、そして「トラスト(Trust)」品質の向上が重要課題として、認識されました。グローバルな研究開発ネットワークを自身で設計・実装・構築・運用するという知見と経験を産みだし創生する環境の維持と発展の重要性を強く確認し、メンバー組織のみなさんと共有しているWIDEプロジェクトの責任を再認識しなければならないのではないでしょうか。

WIDEプロジェクトは、メンバー組織の皆様との産学連携コンソーシアムとして運用されています。企業における「目的基礎研究」でもなく、独創性・独自性を要求する「純粋基礎研究」でもない、「実践的基礎・応用研究」の環境を提供することで、従来の研究組織にない成果を創出してきました。さらに、常に、「グローバル」な視点で、システム全体と個別システムを捉える。これは、WIDEプロジェクト特有のプロジェクト統治モデルであり、「遺伝子」だと考えていますし、今後もこの「遺伝子」を維持・発展、そして進化させなければならないと考えていますし、さらに社会に貢献する責任がますます増していると考えています。

これまでのWIDEプロジェクトの活動にご参画ならびにご支援いただきましたすべての皆様方、組織の方々に感謝と敬意を表しますとともに、ますますのご参画・ご協力・ご指導・ご鞭撻をお願い申し上げます。皆様方との協力・連携を礎として、コロナ禍を大きな契機に変貌を遂げる(しかし、我々がこれまで共有していた方向に)グローバルな社会インフラの実現に向けた協調活動の拡大を皆様と推進できることを期待しております。

2021年3月
江﨑 浩