WIDE

代表挨拶

WIDE プロジェクト代表
江﨑 浩
WIDE プロジェクト代表 江﨑 浩

2025年6月にノルウェーで開催されたIGF(インターネット・ガバナンス・フォーラム)では、「デジタルガバナンスを共に築く(Building Digital Governance Together)」がメインテーマに掲げられました。2024年12月サウジアラビアでの「マルチステークホルダーによるデジタルの未来の構築(Building our Multistakeholder Digital Future)」、2023年10月京都での「私たちの望むインターネット~あらゆる人を後押しするためのインターネット~(The Internet We Want ? Empowering All People)」から、インターネットが構築したデジタル社会がAIの劇的な進化に伴って、マルチステークホルダの中に「AI」が含まれる可能性が見えてきたように思えます。人・企業・政府とインターネットという構成にAIが参入してきたようです。

我々は、多様な技術と多様な組織が運用する自律ネットワークを、共通の統一技術(TCP/IP)をコア基盤として、相互に接続し、地球上に共有のデジタルインフラストラクチャー(インターネット)を構築しました。最初の日本でのTCP/IPネットワークは、JUNETであり、2024年に40年の誕生日を迎え、WIDEプロジェクトも2026年に活動開始から40周年を迎えます。 WIDEプロジェクトは、当初から、地球を取り囲むグローバルなデジタル空間に、多様なコミュニティが形成され、国境を含む地理的/地政学的な制約を受けることなく、個人や多様なコミュニティや組織が自身の意志で自由にこのデジタル空間を利用することを目指していました。しかし、最近では、特に、巨大なビッグテック企業と政府によるデジタル空間の支配力・影響力の拡大による「自由」と「自律」が制約を受けようとしています。これは、先進国に限った話ではなく、これからインターネットが普及・整備される新興国や発展途上国においても深刻な問題であり、ある意味、インターネットにとっての基本原理の維持に関する重要な問題です。

インターネットの自由と自律は、明るい面(Brighter side)ばかりではなく、暗い面(Dark side)も持っています。特に、サイバー攻撃という Dark Sideの活動は、ますますその規模と過激性の拡大が、その収益性向上によって、急加速しています。サイバーセキュリティー対策は、①プロダクト(機器・サービス)、②製造現場(工場など)、③組織、そして、④サプライチェーン&ネットワークの4つのレベル/段階すべてで実現されなければならないことが、広く認識されつつあり、サイバーセキュリティー対策は、個人、企業そして政府というすべてのステークホルダにとって、最重要課題の一つになりました。この最重要課題となったサイバーセキュリティー対策は、「まず自助、次に共助、最後に公助」という順番に沿って実装されるべきですが、「公助」による対策が強調され、サイバーセキュリティー対策が、①個人の自由と尊厳を冒涜する、②境界のなかったデジタル空間への境界の導入する、というDark sideとして利用される危険性が増してきているようにも思えます。

「生成AI」に関する研究開発や事業展開は、ますます急拡大し、その結果、日本の「エネルギー基本計画」をも大きく変更させるに至りました。エネルギー安全保障とデジタル経済安全保障の同時実現です。 第7次エネルギー基本計画では、AIに代表されるデジタル社会の基盤となる半導体産業、およびデータセンターに代表されるデジタルインフラ産業は、今後の社会・産業における効率化だけではなく構造変革と進化に必須であるが、これらの産業の拡大に伴う総電力消費量の増加は許容せざるを得ず、エネルギーインフラの増強と通信インフラとの戦略的な連携整備が必要との結論を誘導しました。そして、電力インフラとデジタルインフラとの本格的/戦略的な合従連衡を目指す「ワット・ビット連携」が、ほぼ一般名詞化されました。ワットビット連携に基づき、生成AIに代表される先進的デジタル技術は、既存(AS IS)システムの効率化を加速させるだけではなく、デジタルネイティブの新しい(TO BE)システムを創成させなければなりません。すなわち、私たちは、インターネット基盤が構成するデジタルインフラおよびデジタル空間をさらに進化させ、最大限に利用可能とし、TO BEのシステムへの産業構造の進化を持続させなければ、エネルギー問題、さらには地球温暖化にも対処できないという、「DXとGXの両立・共存」という大きな政策を誘導することになりまし、これに対する責任を果たさなければなりません。

WIDEプロジェクトは、「全産業の相互接続と全デジタルデバイスのIP化と相互接続環境の実現と認識し、IPv6の研究開発とその社会展開をIoT(Internet of Things)の実現に関する研究開発活動とともに進めてきました。日本におけるIPv6の普及は、有線環境で80%を越え、携帯電話環境でも70%に届こうとしており、一つの節目を迎えました。WIDEプロジェクトが中心となって設立したIPv6普及高度化推進協議会、IPv6社会実装タスクフォース(前身はIPv4アドレス枯渇対応タスクフォース)を、2024年3月に終結させました。 いよいよ、21世紀の第2四半期を迎え、インターネットは、IPv6を基盤としたデジタルインフラに、進化しようとしています。家庭内ネットワークのデジタル化/スマート化を目指したMattersは、最先端IoT機器と大型先端OT設備で構築されるデータのファシリティーにも導入が進められようとしているようです。ITのみならず、OTにおいても IPv6ネイティブなシステムの設計・構築・運用が進められようとしているのです。

WIDEプロジェクトは、インターネット技術のエキスパート集団として、インターネットが構築したグローバルなデジタル空間を分断(=De-Coupling)させることなく、AIの存在と利用を前提とした新しい段階のデジタル空間を、世界中の仲間と協力して構築し、次の世代に引き継いでいく責任があります。そのためには、インターネットの技術とビジョン・ミッション・パーパスを知るエキスパートとして、世界の人々と協力して活動を継続・発展させる必要と責任があると考えます。

WIDEプロジェクトは、メンバー組織の皆様との産学連携コンソーシアムとして運用されています。企業における「目的基礎研究」でもなく、独創性・独自性を要求する「純粋基礎研究」でもない、「実践的基礎・応用研究」の環境を提供することで、従来の研究組織にないユニークで実践的な成果を、40年に渡って創出してきました。『常に、「グローバル」(さらに宇宙という規模・視点に拡大)な視点で、システム全体と個別システムを捉える』のは、WIDEプロジェクト特有のプロジェクト統治モデルであり、「遺伝子」です。今後もこの「遺伝子」を維持・発展、そして進化させなければならないと考えています。

WIDEプロジェクトの活動にご参画ならびにご支援いただいておりますすべての皆様方、組織の方々に改めて感謝と敬意を表しますとともに、 ますますのご参画・ご協力・ご指導・ご鞭撻、そして新しい参加者・参加組織のご紹介・ご招聘をお願い申し上げます。皆様方との協力・連携を礎として、21世紀第2四半期を支える新しいグローバルなデジタル社会インフラの実現に向けた協調活動の拡大を皆様と推進できることを期待しております。

2026年3月