ここでは過去にWIDEプロジェクトがメンバー向けに発信してきた主な活動報告をダイジェストでご紹介します。発信当時の内容に加え、新たな動きや状況の変化に応じて随時追記・更新していきます。
2021年5月よりWIDEプロジェクトのワーキンググループ(WG)として活動を開始した「vSIXプロジェクト」について、2021年度 WIDE研究報告書「第5部 特集5 vSIXプロジェクトの取り組み」から、目的や活動内容などをご紹介します。
1998年にIP version 6(IPv6)標準仕様が策定されて以来、IPv6への完全移行には依然として多くの壁があるのが現実です。しかしIPv4を前提とした長期的なネットワーク運用は限界を迎えています。この状況を打開するべく組織されたのがvSIXプロジェクトです。
プロジェクトの目的は、完全なIPv6シングルスタックを前提とした“vSIXネットワーク”の設計・構築・運用を通して、IPv6シングルスタックでのネットワーク運用に関連する問題の解決策を模索し、得られた知見や成果を社会還元することにあります。2021年5月にWIDEプロジェクト内のワーキンググループ(WG)として活動を開始し、テーマごとにいくつかの分科会に分かれて研究活動を行っています。一方、IPv6関連技術に限らず、これからのインターネットを支える技術開発や若手人材の育成の場としての役割も担っています。
vSIXプロジェクトのメンバはWIDEプロジェクトに所属する各組織の研究者から構成されており、チームコミュニケーションツールやオンラインミーティングツールを活用して議論を行っています。またメンバはVPNサービスを利用して日常的にvSIXネットワークに接続し、研究課題の発見に努めています。
2021年現在、研究に利用しているvSIXネットワークは、東京近郊のWIDE NOC(Network Operation Center)3拠点を結ぶ“Blue”と“Green”の2系統のバックボーンネットワークにより構成されています。これらは独自のデプロイメント手法により独立して管理されており、ネットワークを稼働させながら継続的に設計変更を行うことが可能です。ネットワークやサービスの開発・運用は若手研究者が行っており、運用経験の蓄積を通じた人材育成にもつなげています。
vSIXネットワーク システム構成
プロジェクトでは、他のWIDEプロジェクトメンバと成果の共有や議論を行う場として、定期的に“vSIX BoF”を開催しています。特にWIDE合宿では合宿参加者にインターネット疎通性を提供する“Camp-Net”の役割を果たしています。
●Backbone分科会
主にvSIXネットワーク内部の経路制御や、新たなネットワークバックボーン開発手法について、検討・運用を実践しています。またvSIXネットワークの基本的な運用だけでなく、新たなネットワーク運用モデルの検討及び運用実践もテーマの一つです。
今後はvSIXネットワーク拠点の拡大や、Blue/Greenデプロイメントの運用環境の改善を継続して行う一方、独自のSDNソフトウェアを開発し独自のNFVバックボーンルータを各拠点に展開していく予定です。複雑・高度なネットワークでの運用試験により、社会への貢献度を高めていきます。
●External分科会
主に対外接続やASとしての経路ポリシーの策定を行っています。現在の課題としては、他のASと対外接続を行いvSIXネットワークのインターネット接続性を確保すること、外部ASからのトラフィックをバックボーンネットワークに適切に流すこと、また他のASからvSIXネットワークのコンテンツへのアクセスをより効率良く提供することが挙げられます。
また、Segment Routing over IPv6(SRv6)を利用したトラフィックエンジニアリングとSDN技術により、オペレーターが定めた抽象的な運用ポリシーから具体的に外向きのトラフィックを制御する技術に関する技術開発や、これを利用したスピードテストサイトを公開した運用実験にも取り組んでいます。
異なるトラフィックパスを比較することが出来るスピードテストサイト
●Access Service分科会
エンドユーザ収容の設計・開発・運用を担当し、生活ネットワークとしてのvSIX ASsを提供することを目指しています。具体的には「vSIX公式ブロードバンドルータ」として小型PC(vSIX Pi)を配布し、プラグアンドプレイでvSIX NW環境を利用できるSDN基盤を運用しています。
最近ではBackbone、External分科会と協力し、SRv6のトラフィックエンジニアリングの適用ドメインをエンドユーザの自宅まで拡大する実験的取り組みも行っています。またvSIX公式ブロードバンドルータに正常性確認機能を実装し、エンドユーザ視点でのサービス品質計測に挑戦しています。ネットワーク品質計測に知見を有するSINDAN WGからの技術支援を受けながら、vSIXプロジェクトに特化したシステムとして完成させる予定です。
●Service分科会
主にサービスプラットフォームの開発・運用実験を行う分科会です。vSIXネットワーク内のサーバ機器及び利用者に対して、DNSや内部ポータルサイトのような基本的なサービス群を提供しています。またvSIXではプラットフォーム上でのサービス提供基盤としてKubernetesを運用しており、Service分科会ではこのKubernetesをIPv6シングルスタックで構築・運用するための知見を整理することを目標に、Kubernetesの各種コンポーネントの選定及び構築を行いました。結果、現状におけるベストプラクティスの構成を示すことができました。しかしKubernetesはあくまでサービスをデプロイするための基盤であり、その地盤を固めたに過ぎないため、今後は実際にKubernetes上でサービスを稼働させ、IPv6環境下でのKubernetesコンポーネントの対応状況の検証を行いつつ、各サービスのデプロイの自動化/簡略化を進める予定です。
vSIX WGでは下記のようなサイドプロジェクトも継続的に行っています。
vSIXプロジェクトWGでは今後も将来のインターネットを支える運用技術の開発や人材の輩出を目指し、日々精力的に活動を行っていきます。
リンク:
2021年度 WIDEプロジェクト研究報告書「第5部 特集5 vSIXプロジェクトの取り組み」
https://www.wide.ad.jp/About/report/pdf2021/part05.html
【 2022年8月 】