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ここでは過去にWIDEプロジェクトがメンバー向けに発信してきた主な活動報告をダイジェストでご紹介します。発信当時の内容に加え、新たな動きや状況の変化に応じて随時追記・更新していきます。

#06 SINDANプロジェクト
1. SINDANプロジェクトの背景と⽬的

ネットワーク障害の原因を突き止めるには、ユーザから寄せられる「つながらない」状態を的確・迅速に把握することが重要です。ただしユーザが的確に状態を評価し報告するのは現実的に難しいため、ネットワーク運用者がユーザ側からの観測を元に状態を評価し、問題を把握できる手法を確立する必要があります。
SINDAN(Simple Integrated Network Diagnosis And Notification)ワーキンググループは、こうしたネットワーク運用におけるネットワーク状態の把握やその評価手法の研究開発を行うため2017年に設立されました。
SINDANの発端となった2013年のWIDEプロジェクト合宿では、ユーザ側からの観測を元にネットワークの状態を評価する手法を取り上げました。サーバ監視や外部接続監視で障害点が検出できない場合には、ユーザが被っている障害をユーザ側から確認することが求められます。そこで、階層的な計測でネットワーク障害を切り分けること、そしてユーザ側の計測結果を的確に運⽤者に伝えることの2点を課題とし、議論を重ねました。
以来、ネットワーク評価に関する様々な課題に取り組んでいます。

2. 2021年の活動

2021年に取り組んだテーマは次の通りです。

  • ● 安価なコンピューティングデバイスを用いた低コストな無線LAN計測システムの開発
  • ● 時系列DBを利用した無線基地局およびクライアント統計情報の継続的な収集と可視化
  • ● 日本のIPv6インターネット環境の評価分析
  • ● SINDANクライアントの改良
  • ● SINDANマルチテナント

以下、それぞれの活動とその狙いを簡単にご紹介します。

● 安価なコンピューティングデバイスを用いた低コストな無線LAN計測システムの開発
無線LAN環境の通信クオリティを低コストで計測し評価するため、ARMプロセッサ搭載シングルボードコンピュータRaspberry Piを用いた無線LAN計測システムを開発しました。
コロナ禍によりオンライン講義が増える中、多くの学生が学内無線LANに同時接続しても十分なクオリティを確保できるかといった計測と評価が求められるようになりました。しかし実環境と同じ使用状況で調査計測を行うためには、実際に多数の端末を用意するか、高価な計測機械や業者によるフィールドテストが必要となります。そこで、計測デバイスに安価なIoTコンピューティングデバイスを採用し、多数の無線クライアント接続による無線LAN環境を模して計測できるシステムを開発しました。このシステムにより、実環境に近い状態での計測が低コストで可能になりました。

● 時系列DBを利用した無線基地局およびクライアント統計情報の継続的な収集と可視化
これも学内無線ネットワークの品質評価に関する活動です。
無線コントローラから得られる基地局と接続ステーションの統計情報を収集し、無線環境の可視化および個々の基地局・ステーションの接続状況について可視化・解析が可能なシステムを開発しました。
これにより、個々の基地局や利用者それぞれのクライアントについて、過去に遡って接続状況を調べるとともに、問題点の洗い出しを行うことが可能となりました。

● 日本のIPv6インターネット環境の評価分析
iNoniusプロジェクトと協同し、日本国内のIPv6対応状況を分析・評価することを目的とし、国内インターネット通信品質の計測が行えるWebサービス"iNonius Speed Test"を構築・運用しています。

● SINDANクライアントの改良
SINDANワーキンググループが提供しているネットワーク計測エージェントアプリケーション、SINDAN Clientの改良を行っています。

● SINDANマルチテナント
SINDANワーキンググループでは計測データを収集するサーバも開発してきましたが、これはもともと大規模ネットワーク管理者が利用することを想定しており、それぞれのネットワーク環境ごとに管理者が収集サーバを運用するシステムとなっていました。しかし昨今のリモートワークの広がりにより、各組織構成員の自宅などユーザ個々の環境も計測する必要性が高まっています。
そこでワーキンググループではRaspberry Piなどの計測エージェントに集積サーバを組み込んだ計測システムを開発しました。今後はそのような集積サーバをクラウド上に設置することにより、管理ドメインが異なる複数ユーザが共通して利用できるシステムを目指し、集積サーバの実装を再設計する議論を行っています。マルチテナント環境におけるシステムの要件定義およびアーキテクチャデザインを行い、2023年度以降に詳細な設計と実装を進めていく予定です。

3. 今後の活動

SINDANワーキンググループでは、学会などで運用されるイベントネットワークの評価実験を通して、ユーザ視点による階層型ネットワーク計測の有効性の評価を続けています。2021年に取り組んできた、無線LAN環境の品質評価への応用や、サーバ側での計測連携に関する拡張をもとに、引き続き実環境での定常的な利用とシステムのブラッシュアップを進め、実用的なネットワーク運用補助システムの実現を目指します。

リンク:
2021年度 WIDEプロジェクト研究報告書「第6部 特集6 SINDAN」
https://www.wide.ad.jp/About/report/pdf2021/part06.html

【 2022年12月 】