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プレスリリース

2005年11月7日

KAMEプロジェクトの完成宣言
~ IPv6研究開発は、運用と応用に軸を置いた新段階へ ~

WIDEプロジェクト
代表 村井純

 WIDEプロジェクト(代表:慶應義塾大学 教授 村井純) は、1998年より推進してきたIPv6技術の研究開発プロジェクトであるKAMEプロジェクトに関して、IPv6技術の基本仕様の国際標準化が完了した こと、および商用展開に必要となる基盤が確立したことにより、当初からの活動目的は達成したと判断し、KAMEプロジェクトの活動を完結させて、今後、 IPv6技術の高機能化や新領域への展開に向けた戦略的な研究開発の取り組みへと発展させることにいたしました。

  WIDEプロジェクトのIPv6技術の研究開発は、1998年4月に設立した、産学共同の研究活動であるKAME プロジェクトを核の一つとして進めてまいりました。KAMEプロジェクトは、米国カリフォルニア大学バークレイ校(UCB) のCSRG(Computer Systems Research Group)がBSD UNIX参照ソフトウェア(注1)を開発して世界のインターネットの導入と普及を牽引したのと同じ役割を、次世代インターネットの導入において果たすことを使命として発足しました。そうしてKAMEプロジェクトは、BSD UNIX 上で IPv6 プロトコルスタック(注2)の研究開発を行い、インターネット技術の国際標準化組織であるIETF (Internet Engineering Task Force)の活動に積極的に参加してまいりました。

  KAMEプロジェクトが開発したBSD UNIXのIPv6プロトコルスタックの参照ソフトウェアは、オープンソフトウェアとして公開することで、国内外の学術コミュニティおよび産業界の両方で 広く利用され、複数の研究開発組織や企業が、共通のソフトウェア基盤のもとで、ネットワーク機器や計算機を研究開発することが可能となりました。このこと で、(1) 個別に同一のプロトコルスタックの研究開発を行う必要がなくなることによる研究開発効率の向上と、(2) 相互接続性の向上、さらに、(3)ソースコードの公開によるソフトウェアエンジニアの効率的な養成を実現し、国際的な評価を得てきました。

  現在、IPv6技術は、IETFにおけるIPv6基本仕様の国際標準化が完了(注3) して、米国政府によるIPv6システムの導入計画(2008年6月までに政府ネットワークのIPv6化を行う)や、中国におけるCNGI(China Next Generation Internet)計画が推進され、世界規模での実用段階に入っております。また、KAMEプロジェクトは、IPv6を基盤とした計算機ネットワークの研 究開発の効率化とその普及において国際的に大きく貢献したことが認められて、平成14年度(2002年)には総務大臣表彰(グループ受賞)を受けていま す。  

  そこでWIDEプロジェクトでは、プロジェクトの目的を達成したKAMEプロジェクトの活動を完結させ、プロジェ クトメンバーの戦略的再配置を行い、IPv6に関する研究開発を、高機能化や新領域への展開など戦略的に推進展開することにいたしました。 具体的には、モバイル・アドホックネットワーキング、センサーネットワーキング、エンドツーエンドセキュリティーアーキテクチャなどの領域におけるネット ワークアーキテクチャ、オペレーティングシステム、ミドルウェア、アプリケーションなど実践的で総合的な研究開発を戦略的に推進し、IPv6技術のさらな る高度化と高機能化に対して貢献してまいります。


(注1) BSD UNIXと参照ソフトウェア
University of California, Berkeley (UCB)のCSRG (Computer Systems Research Group)が研究開発した、現在のインターネットで広く使用されている通信プロトコルであるTCP/IPと呼ばれるプロトコルスタックを組み込んだ、マ ルチユーザ、マルチタスクで動作する UNIX と呼ばれる計算機のオペレーティングシステム(OS: Operating System)。このソフトウェアは、ソースコードがオープンソフトウェアとして広く公開され、UNIXを用いた計算機ネットワーク(すなわちインター ネット)の構築と研究開発活動において、業界標準(de facto standard)として共通に広く利用された。このように、事実上の標準となるソフトウェアを「参照ソフトウェア」と呼ぶ。

(注2) プロトコルスタック
プロトコル(2つのソフトウェアモジュールの間でデータの交換を行うために規定された通信規約)を動作させるために作成されたソフトウェア群。

(注3) IPv6の基本仕様は、1995年にRFC1883として発行され国際標準となった。

  1. WIDEプロジェクト:http://www.wide.ad.jp/
    Widely Integrated Distributed Environmentの略。インターネット技術に関する総合的で実践的な研究開発を推進する産官学共同の研究開発コンソーシアム。 1988年に設立された。 現在、100社を超える企業、40校以上の学術組織が、WIDEプロジェクトに参画しており、次世代インターネット技術に関する幅広い研究開発活動を展開 している。

  2. KAMEプロジェクト: http://www.kame.net/
    WIDE プロジェクト (代表: 慶應義塾大学 教授 村井純)、株式会社インターネットイニシアティブ、横河電機株式会社、株式会社日立製作所、東京大学など13組織が次世代インターネットプロトコル 「IPv6」 (IP version 6) の本格的な普及を推進するために、1998年4月に設立した産学共同プロジェクトである。その後、本プロジェクトの研究開発は、下記の組織より参加した研 究者が中心となって推進された(五十音順)。

    アラクサラネットワークス株式会社 (http://www.alaxala.com/)
    株式会社インターネットイニシアティブ (http://www.iij.ad.jp/)
    慶應義塾大学 (http://www.keio.ac.jp/index-jp.html)
    東京大学(http://www.u-tokyo.ac.jp/
    株式会社東芝 (http://www.toshiba.co.jp/)
    日本電気株式会社 (http://www.nec.co.jp/)
    株式会社日立製作所 (http://www.hitachi.co.jp/)
    富士通株式会社 (http://jp.fujitsu.com/)
    横河電機株式会社 (http://www.yokogawa.co.jp/)

  3. IPv6技術
    次世代インターネットの基礎技術であるIPv6は、現在のIPv4 (IP version 4)のアドレス不足を解消するほか、生活・産業活動を支える情報基盤として必要な機能を提供する。

  4. IETF(Internet Engineering Task Force): http://www.ietf.org/

■ 本件に関する問い合わせ:
WIDEプロジェクト 広報担当:石川
Tel: 0466-49-3618 
E-Mail:press@wide.ad.jp

KAMEプロジェクトの功績に対して寄せられた言葉


TCP/IP開発者の一人であり、インターネットの父と呼ばれるVinton G. Cerf博士
Chief Internet Evangelist, Google/Regus

Today's Internet was established using IP version 4, which resulted from the work of many engineers in the mid-1970s. I had the privilege of leading this project during my time at Stanford University and at the US Defense Advanced Research Projects Agency. I have always recognized and appreciated the KAME project, led by Jun Murai, that has contributed strongly to the deployment and improvement of the Internet. IP version 6 is the next generation core networking protocol, that has been standardized by IETF. All of us recognize that the IP version 6 specification has long been stable and is now ready for business deployment. Jun Murai and his KAME project have made great contributions to the development, establishment and deployment of IP version 6 technology. I am looking forward very much to further technical and social contributions to the Internet community, beyond IP version 6, by the KAME project, by Jun Murai and by the WIDE project.

現在のインターネットは、1970年中頃に多くのエンジニアの努力によって生まれたIPv4で構築されました。 私は、スタンフォード大学と国防総省国防高等研究事業局(Defense Advanced Research Projects Agency)に所属している際に、このプロジェクトを指揮する幸運に恵まれました。私は、村井純博士に率いられ、インターネットの普及と発展に大きく寄 与してきたKAME プロジェクトに対し、常に関心を持つと共に高く評価してきました。IPv6は、次世代のネットワークプロトコルの中心を成すものであり、IETF によって標準化されてきました。我々は、IPv6 の品質はすでに長きにわたって安定しており、ビジネスへの展開も準備が整っていると認識しています。村井純博士と KAME プロジェクトは、IPv6 技術の開発、構築、そして普及に大きな貢献を果たしてきました。私は、KAME プロジェクト、村井純博士、そして WIDE プロジェクトによる、IPv6 を越えた、技術的および社会的なさらなる貢献を期待しています。


BSD UNIXやJavaの開発者で、Sun Microsystemsの創設メンバーであるBill Joy (William N. Joy)氏
co-Founder and former Chief Scientist, Sun Microsystems Partner, Kleiner Perkins Caulfield Byers a California-based Venture Capital Firm

While at Berkeley many years ago, I wrote the TCP/IP implementation for BSD, distributing version 4 of IP, the first widely available version, in source form, thus seeding the spread of the Internet.

In the same way, the WIDE project's KAME effort has developed and spread implementations of the new version 6 of the IP protocol. As IPv6 becomes widespread I hope KAME's contribution to this important new protocol is widely appreciated.

  私は、ずいぶんと昔のバークレイ校時代に、BSD 用に TCP/IP を実装しました。それは、初めて広範囲に公開された IPv4 であり、ソースコードの形で利用可能であったため、インターネットが拡がるきっかけとなりました。
まったく同じように、WIDE プロジェクトの KAME による努力によって、IP の新しいバージョンである IPv6 の実装が開発され、配布されました。IPv6 が普及するにつれ、この重要で新しいプロトコルに対する KAME の貢献が、広く評価されると私は期待しています。


Cisco Systemsの創設メンバーであり、元IETF議長(1996年~2001年)のFred Baker氏

In the early 1990s, Frank Solensky and others realized that the initial design of IPv4 addressing was resulting in a fast and inefficient deployment of the IPv4 address space, and that with the commercialization of the Internet that resource would be soon exhausted. A number of efforts were started simultaneously to address that issue; these included, in the very near term, recovery of some of the allocated-but-unused address space, development of private address space and address translation, and a project to create a next generation Internet Protocol. The outcome of that last was IPv6.

We knew, of course, that IPv6 deployment would take a long time - we talked about the protocol development and deployment taking a decade. What we didn't take into account was the rapid fossilization of the Internet into IPv4 - with each step that we took deeper into commercial service, it became harder to convince people to deploy something simply because it was a step forward. We had to come to a real problem and demonstrably have a real solution to it, not just have something that would avoid future problems and maximize our ability to deploy new applications.

There is a story told about an automobile mechanic having a conversation with a heart surgeon. He comments that "you and I seem to have similar jobs: I can observe the problems that the engine is having, replace or repair various parts, and close it back up again.
Tell me, doctor: why is it that I get paid what I am paid, and they pay you what they pay you?" The Doctor replies: "trying fixing it while the engine is running." What we had to learn was how to repair the Internet "with the engine running", which is a challenging proposition.

Doing that, of course, required extensive proof of concept, new applications that demonstrated the value of IPv6-based applications, a reference implementation that undeniably worked well, and also vision and leadership. The KAME Project provided much of that, both in the products and research experiments and in the personal leadership of Dr.Jun Murai. It served as the basis for some commercial products, and for others demonstrated what could be done if applications were unshackled from a wired-network client/server architecture. I am not certain that we could have deployed IPv6 in today's Internet without the leadership and the technology developed in KAME.

  1990年代初頭、Frank Solensky らは、IPv4 のアドレス体系が最初に設計されたままでは、IPv4 アドレスが急速に浪費すること、そしてインターネットの商用化によりその資源はすぐに枯渇してしまうことに気づきました。この問題を解決するために、いく つかの模索が並行して始められました。  短期的な解決策として、割り当てられたままで利用されていないアドレス空間の回収、プライベートアドレスと NAT の開発が行われ、そして次世代インターネットプロトコルの開発がプロジェクト化されました。そのプロジェクトの最終成果として、IPv6 が生まれたのです。
もちろん、IPv6の普及には長い時間がかかることは分かっていました。このプロトコルの開発と普及には10年はかかると話したものです。ただ、我々の 想定外だったのは、インターネットが急速にIPv4と一体化してしまったことです。商用化が進むにつれて、それが単に次の一歩だという理由で、何かを普及 させることを人々に納得させるのが次第に困難になりました。真の問題を突き止め、それに対する明確な正しい解決方法を見つけなければなりませんでした。単 に未来の問題を避けることが可能だとか、新しいアプリケーションの可能性を広げるといった解決方法ではダメでした。
心臓外科医と会話する自動車整備士の話を引き合いに出してみましょう。整備士はこう言います。「私たちの仕事は似たようなものです。私は、エンジンの問 題を診断して、部品を修理したり交換したりして、元通りに組み立てます。教えて下さい、先生。私の稼ぎがこれだけなのに、なぜあなたの稼ぎはそんなにある のですか?」心臓外科医の答えはこうです。「私はエンジンが動いているときに修理しなければならないから」。我々が学ばなければならなかったのは、イン ターネットを動かしながら修理する方法です。それは、困難ですが、やりがいのある課題です。
もちろんこのためには、さまざまな点での実証事例、IPv6を利用する価値を証明するような新しいアプリケーション、間違いなく動作する参照実装、そし て展望と指導力が要求されます。KAME プロジェクトは、成果物、研究実験、そして村井純博士の指導力を通じて、それらの多くを提供してくれました。KAME のコードは、いくつかの製品の基礎となりました。また、有線ネットワークのクライアント・サーバモデルからアプリケーションが解放されると何が起こるのか も示してくれました。KAME のリーダシップと彼らが開発した技術なくして、IPv6 が今日のようにインターネットへ普及することはなかったでしょう。


現IETF議長であるBrian E. Carpenter博士

The KAME project has been a very significant contribution to the spread of IPv6, in many ways, but in particular by directly supporting the "running code" aspect of the IETF standards process.
It is yet another major contribution to the development of the Internet made by the WIDE project.

  KAMEプロジェクトは、さまざまな面でIPv6の普及に多大な貢献をしてきました。その中でも特筆すべきは、IETFの標準化プロセスにおける「実際に動くコード」という理念を直接裏付ける形でそれを実現したという点です。
それは、インターネットの発展に対し WIDEプロジェクトがまた一つ成し遂げた有意義な貢献です。

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