WIDE

代表挨拶

WIDE プロジェクト代表
江﨑 浩
WIDE プロジェクト代表 江﨑 浩

WIDEプロジェクト 2016

インターネットは、地球上のすべての人とコンピュータをディジタル通信で相互接続し、接続される人とモノ(コンピュータが内蔵された物体)の数と多様度は、ますます拡大しています。膨大なディジタルデータ(=ビッグデータ)がオンライン化され、ディジタル処理され、データが情報に変わり、その情報を用いて人とモノとが相互作用を起こす地球規模の巨大なエコシステムを形成しましたし、常に拡大・膨張を続けています。インターネットは、WEBという第1の波、情報検索という第2の波を経て、ディジタルネイティブ・インターネットネイティブという第3の波へと突入しているのではないでしょうか。

IoT(Internet of Things)あるいはCPS(Cyber Physical System)とも呼ばれるサイバー空間と実空間の融合・統合は、Cyber-Twinの段階からCyber-Firstの段階に入りつつあります。また、コンピューティング機能の増大は、人間の能力をこえるような人工知能の能力が発現しつつあり、これが遍在化に向かっています。さらに、すべての人とモノが繋がることで、これまでのPUSH型の市場構造(Supply-Chain)は、PULL型の構造(Demand-Chain)へと急激な構造変化を起こしつつあります。ロングテール型のビジネス構造が、コンピュータネットワーク、特にインターネットによって、いよいよ一般化・汎用化しつつあるのではないでしょうか。

2020年のオリンピック・パラリンピックの東京での開催に向けて、新IT戦略が策定されるとともに、2015年10月には「IoT推進コンソーシアム」がWIDEプロジェクトファウンダーの村井純を会長として発足するなど、インターネットを前提にした社会インフラの高度化とスマート化が推進されなければなりません。2020年、さらに2050年に向かって、WIDEプロジェクトとして、我々の研究開発の成果をもとに、グローバル社会への貢献が期待されています。2016年5月・6月に伊勢志摩で開催された先進7か国によるG7サミットにおいては、ICT大臣会合での議論を経て、透明なインターネットの存在と整備が、グリーバルなディジタルエコノミーの発展に欠かせないものであること、そして、サイバーセキュリティーの拡充の必要性が宣言されました。インターネットが社会に広く普及し、商用のインターネットサービスが展開されている中、インターネットの「トラスト(Trust)」品質の向上が重要課題として認識されています。特に、江崎が理事を務めるISOC(Internet Society)では、Collaborative Securityと称する、インターネットおよびディジタルエコノミーに関係するすべてのステークホルダ(マルチステークホルダ; MSH, Multi Stake Holder)による連携・協調した対応の普及に向けた活動が展開されています。日本でも、IGCJ(Internet Governance Conference Japan)を発足させ、同様の活動を展開するための活動を活発化させています。G7での方向性は6月のOECD大臣会合、G20へと展開されました。また、G7サミットにおいては、グローバルな教育研究を目的としたインターネットテストベッドの継続的なアップグレードと拡大、さらに、グローバルに連携可能な人材が自由に交流可能な環境の必要性が共有されたことは、WIDEプロジェクトの活動をEncourageするものでもあります。

インターネットが一般化し産業・社会活動の基盤となったために、政府がインターネットのコントロールをナショナルセキュリティーという観点・理由から強化しようとしています。この動きは、中国、ロシアなどだけではなく、今後米国においてもその傾向が強くなることが懸念されます。このような観点からも、グローバルな研究開発ネットワークを自身で設計・実装・構築・運用する知見と経験を産みだし創生する環境の維持と発展の重要性を再確認しなければならないのではないでしょうか。このような背景のもと、WIDEプロジェクトでは、華為技術社殿やシスコ社殿をはじめとした多くのWIDEメンバー組織の方々や、グローバルなパートナー組織の方々のご支援によって、WIDEインターネットの基幹部分の広帯域化と接続領域の拡大を続けてきました。このようなグリーバルなネットワーク環境の整備と拡大は、今後も継続しなければなりませんし、WIDEインターネットを用いた、新しい段階の研究開発を起動させなければならないと考えています。

我々WIDEプロジェクトは、1990年代後半に、IPv6に関する議論として行っており、インターネット自動車やスマートビルなど実践的な研究開発活動を展開してきました。当時の一番の懸念は、TCP/IPを実装したいろいろなシステムがインターネット産業以外の分野で導入・展開される場合に、これらが、インターネットに接続されない固有のサイロを形成し、固有の相互接続されないネットワークを形成し運営されることでした。現在のIoTは、グローバルな接続性を提供可能なTCP/IPは利用するかもしれないけども、Walled Gardenとよく言われる「保護された空間」を意図的に形成して、ユーザを囲い込むVertical Lock-onのシステムが構築され、多数のFragmentされた空間を生成しようとしているのではないでしょうか。この「保護された空間」で用いられるアプリケーションレイヤでの識別子などは、グローバル性や他の「保護された空間」との相互接続性を考慮しないものとなってしまう場合が非常に多く見られます。さまざま組織がインターネットのFragment化への懸念を表明していますが、インターネットは、現在、地球上で唯一の共通のプラットフォームという重要な特性を維持できるかどうかの瀬戸際にあるように思えます。Fragmentを防止することこそがIoTの成功の必須条件のはずです。

我々は、毎年夏に開催しているボードメンバーを中心にした合宿において、今回は『Software Defined Infrastructure, SDN/NFV』をテーマとしました。ここでの議論では、クラウドコンピューティング時代の広域ネットワークと大規模データセンターにおけるネットワークの今後の方向性と研究課題の議論を行いました。IoTクラウド時代のデジタルインフラストラクチャの構築に向けた研究課題の整理です。

我々は、物理的に無限ではなく有限な実空間の上で、唯一の共有されるコモンズの空間(=インターネットおよび「インターネット・バイ・デザイン」に基づいて形成される共有プラットフォーム)を、構築し運用していきながら、持続的なイノベーションを継続するような構造を維持しなければならないのです。まさに、21世紀のグローバルな自然と共生するサイバーシステム・人工構造体からなるエコ・システムの設計と構築を目指さなければなりません。

WIDEプロジェクトは、メンバー組織の皆様との産学連携コンソーシアムとして運用されています。企業における「目的基礎研究」でもなく、独創性・独自性を要求する「純粋基礎研究」でもない、「実践的基礎・応用研究」の環境を提供することで、従来の研究組織にない成果を創出してきました。これは、WIDEプロジェクト特有のプロジェクト統治モデルであり、今後も維持・発展させなければならないものであると考えています。

WIDEプロジェクトは、メンバー組織の皆様との産学連携コンソーシアムとして運用されています。企業における「目的基礎研究」でもなく、独創性・独自性を要求する「純粋基礎研究」でもない、「実践的基礎・応用研究」の環境を提供することで、従来の研究組織にない成果を創出してきました。これは、WIDEプロジェクト特有のプロジェクト統治モデルであり、今後も維持・発展させなければならないものであると考えています。

これまでのWIDEプロジェクトの活動にご参画ならびにご支援いただきましたすべての皆様方、組織の方々に感謝と敬意を表しますとともに、ますますのご参画・ご協力・ご指導・ご鞭撻をお願い申し上げます。皆様方との協力・連携を礎として、新領域の開拓と安心・安全を実現する社会インフラの実現に向けた協調活動の拡大を皆様と推進できることを期待しております。

2017年3月
江﨑 浩