WIDE

代表挨拶

WIDE プロジェクト代表
江﨑 浩
WIDE プロジェクト代表 江﨑 浩

インターネットは、ディジタル技術を用いてすべてのコンピュータを相互接続することで、ディジタル情報が透明に通信・交換・分析・加工されるプラットフォームをグローバルに形成することに成功しました。その結果、ディジタル情報がオンライン化され、さらにネットワーク化され、グローバルに分散されたサイバー空間を形成することになりました。単なるディジタル空間ではなく、多様な個別のディジタル空間が、自律分散的に結合されたサイバー空間です。そして、このサイバー空間は、実空間とは異なる空間を形成しました。IoT(Internet of Things)は、最近頻繁に使われるようになりましたが、インターネットが登場したころからすでに存在していたものです。

地球上のすべての人とコンピュータをディジタル通信で相互接続され、膨大なディジタルデータ(=ビッグデータ)がオンライン化され、ディジタル処理され、データが情報に変わり、その情報を用いて人とモノとが相互作用を起こす地球規模の巨大なエコシステムを形成し、さらに急激な速度で拡大・膨張を続けています。インターネットは、WEBという第1の波、情報検索という第2の波を経て、ディジタルネイティブ・インターネットネイティブという第3の波へと突入しているのではないでしょうか。

さらに、サイバー空間と実空間の融合・統合は、Cyber-Twin(ネットワーク化されたdigital-twin)の段階からCyber-Firstの段階に入りつつあります。さらに、すべての人とモノが繋がることで、これまでのPUSH型の市場構造(Supply-Chain)は、PULL型の構造(Demand-Chain)へと急激な構造変化を起こしつつあります。ロングテール型のビジネス構造が、コンピュータネットワーク、特にインターネットによって、劇的な進化を遂げようとしているのではないでしょうか。

2020年のオリンピック・パラリンピックの東京での開催に向けて、新しいIT戦略が策定され、インターネットと「サイバーファースト」を前提にした社会インフラの高度化とスマート化が推進されなければなりません。WIDEプロジェクトとして、我々の研究開発の成果をもとに、グローバル社会への貢献が期待されています。2016年5月・6月に伊勢志摩で開催された先進7か国によるG7サミットにおいては、ICT大臣会合での議論を経て、透明なインターネットの存在と整備が、グリーバルなディジタルエコノミーの発展に欠かせないものであること、そして、サイバーセキュリティーの拡充の必要性が宣言され、これを、グローバルな考え方・方向性にするための努力が継続して行われています。さらに、インターネットが社会に広く普及し、商用のインターネットサービスが展開されている中、インターネットの「トラスト(Trust)」品質の向上が重要課題として認識されています。インターネットが一般化し産業・社会活動の基盤となったために、政府がインターネットのコントロールをナショナルセキュリティーという観点・理由から強化しようとしています。この動きは、中国、ロシアなどだけではなく、世界全体での傾向となりつつあるように見えます。このような観点からも、グローバルな研究開発ネットワークを自身で設計・実装・構築・運用するという知見と経験を産みだし創生する環境の維持と発展の重要性を強く確認し、メンバー組織のみなさんと共有しているWIDEプロジェクトの責任を再認識しなければならないのではないでしょうか。このような背景のもと、WIDEプロジェクトはグローバルなネットワーク環境の整備と拡大と、新しい段階の研究開発を起動させなければならないと考えています。

我々WIDEプロジェクトは、1990年代後半に、IPv6に関する議論として行っており、インターネット自動車やスマートビルなど実践的な研究開発活動を展開してきました。当時の一番の懸念は、TCP/IPを実装したいろいろなシステムがインターネット産業以外の分野で導入・展開される場合に、これらが、インターネットに接続されない固有のサイロを形成し、固有の相互接続されないネットワークを形成し運営されることでした。現在のIoTは、グローバルな接続性を提供可能なTCP/IPは利用するかもしれないけども、Walled Gardenとよく言われる「保護された空間」(=サイロ)を意図的に形成して、ユーザを囲い込むVertical Lock-onのシステムが構築され、多数のFragmentされた空間を生成しようとしています。この「保護された空間」で用いられるアプリケーションレイヤでの識別子などは、グローバル性や他の「保護された空間」との相互接続性を考慮しないものとなってしまう場合が非常に多く見られますし、さらに、十分なサイバーセキュリティー対策をある意味意図的に怠る現象が少なからず見受けられます。いくつかの組織がインターネットのFragment化への懸念を表明しています。インターネットは、現在、地球上で唯一の共通のプラットフォームという重要な特性を維持できるかどうかの瀬戸際にあるように思えます。Fragmentを防止することこそがIoTの成功の必須条件のはずです。

我々は、毎年夏に開催しているボードメンバーを中心にした合宿において、今回は『SWEET』というテーマとしました。サイバーセキュリティに関する単なる技術に関する議論ではなく、社会学、経済学、経営学、心理学など、システムの設計・実装・構築・運用に関する総合的な議論を、奈良先端科学技術大学 門林雄基教授のリーダーシップのもと行いました。

我々は、物理的に無限ではなく有限な実空間の上で、唯一の共有されるコモンズの空間(=インターネットおよび「インターネット・バイ・デザイン」に基づいて形成される共有プラットフォーム)を、構築し運用していきながら、持続的なイノベーションを継続するような構造を維持しなければなりません。まさに、21世紀のグローバルな自然と共生するサイバーシステム・人工構造体からなるエコ・システムの設計と構築を目指さなければなりません。

WIDEプロジェクトは、メンバー組織の皆様との産学連携コンソーシアムとして運用されています。企業における「目的基礎研究」でもなく、独創性・独自性を要求する「純粋基礎研究」でもない、「実践的基礎・応用研究」の環境を提供することで、従来の研究組織にない成果を創出してきました。これは、WIDEプロジェクト特有のプロジェクト統治モデルであり、今後も維持・発展させなければならないものであると考えています。

これまでのWIDEプロジェクトの活動にご参画ならびにご支援いただきましたすべての皆様方、組織の方々に感謝と敬意を表しますとともに、ますますのご参画・ご協力・ご指導・ご鞭撻をお願い申し上げます。皆様方との協力・連携を礎として、新領域の開拓と安心・安全を実現する社会インフラの実現に向けた協調活動の拡大を皆様と推進できることを期待しております。

2018年3月
江﨑 浩