WIDE

Founder挨拶

WIDE プロジェクト ファウンダー
村井 純
WIDE プロジェクト ファウンダー 村井 純

WIDEプロジェクト2019年度

2019年4月7日、第70回テクノロジー&エンジニアリング・エミー賞を受賞するために私はラスベガスを訪れていた。エミー賞は米国の放送関連の賞であるが、今回はW3C、Netflix、マイクロソフトのWEBでの「フルTVエクスペリエンス」の技術標準化がそのテクノロジー部門を受賞した。受賞そのものは放送業界にとってのイノベーションを引き起こした、インターネット上のビデオストリーム基盤の標準化の貢献を認識してのものである。

2008年ごろから開始されていたHTML5に向けたWEB環境の標準はW3Cを舞台に活発に行われていた。ビデオストリームの配信・交換をWEBのアーキテクチャ上でいかに標準技術として共通化できるかはHTML5の開発の一つの中核領域であった。そもそもストリーム型のメディアは帯域保証のメカニズムを基盤として持っていないインターネットのアーキテクチャでは困難であるので、アダプティブに帯域を調整するプロトコルの開発が必要だった。プロトコルとしてのその取組と並行に、W3Cでは、それまでのプラグイン方式によるサービス毎に異なるビデオストリームの扱いを統一して扱えることと、商用サービスとしての基盤を形成するセキュアストリームなどを導入することで、それまで知財で自由でなかったエンコーディングとデコーディング技術を標準に組み込むなどして出来上がった環境がW3Cの受賞対象となった技術体系である。

IETFによって進められるプロトコル標準はグローバルに共通のプロトコルを確立することによりインターネットの重要な使命であるグローバル空間の創造を果たしてきた。WEBの最初の開発者であるティム・バーナーズ・リーは、One WEBというコンセプトを貫いてW3Cがインターネット上の共通の基盤であることというコンセプトをリードしてきた。OSなどのプラットフォーマーが独自の仕様で激しい競争をすすめる中、それらのベンダーも深く関わる個々のWEBブラウザが、W3Cの場で標準化を実現する努力を続けてきたことは、現在のインターネット環境の使命を考えると極めて重要である。

YoutubeやNetflixなどビデオストリームによる新しい産業体系が生まれた背景は、彼らがコンテンツのサービスに専念できる環境を、ネットワークプラットフォームの標準化が提供したためである。これは、インターネット上のグローバルなプラットフォームを技術標準化によって確立することに大きな意義を示す一つの事例であり、今後のインターネットアーキテクチャのデザインを推進するためのステップとなる。

AIや自動運転などのデジタルテクノロジーに対する関心が高まるにしたがって、5Gなどのネットワークインフラストラクチャに対する新しい要求が生まれてきている。WIDEプロジェクトでは、ネットワークアーキテクチャのソフトウェア化とその標準化に対する取り組みは2014年後半から「次世代NSPコンソーシアム」として取り組んでいて、その成果は5Gやデータセンターアーキテクチャへの技術提案や標準化に加えて、一般社団法人 高度ITアーキテクト育成協議会(AITAC)として2017年からの高度ネットワーク人材の育成体制へと発展している。

WIDEプロジェクトは、Pacific Waveという北米RENの組織と100Gbpsの太平洋ケーブルであるTransPac4という米国NSFのプロジェクトに参加している。また、2017年からグアムをハブとした米国本土、ハワイ、オーストラリア、東南アジアの接続に日本-グアムの回線を通じて参加し、2020年後半からの運用を計画している。更に、欧州の研究教育高速ネットワーク(REN)であるNordunetから北極海経由の日本との直接連携の提案を2020年1月にホノルルで開催されたPacific Telecommunication Conference(PTC)の会場で相談された。北極海からの海底ケーブルの利用の検討は2012年に北極海の航路が誕生したときから計画していて、それが別の形で進行しそうな状況となってきた。

2019年からNTN(Non-Terrestrial Network)に対する沢山のアプローチが進行し始めた。静止衛星のインターネット利用での見直し、インターネットミッションの低軌道衛星打ち上げの開始、そして、成層圏ネットワーク基盤開発の開始など、デジタルデバイド解消やIoTデバイスのための人間居住地を越えたカバレージをめざす「インターネットインクルージョン」の推進が開始されている。WIDEプロジェクトでは、衛星を使ったインターネットインフラストラクチャの構築を、1994年から開始して、プロトコルとしてもUDLR(RFC3077)を提案し、それを用いて東南アジアのサブプロジェクトであるAI3とSOI-Asiaとして現在でも活動を続けている。

これらに記述した内容は、WIDEプロジェクトの継続的な研究開発活動が、2019年度に新たな展開を起こしているインターネットインフラストラクチャのアーキテクチャに結実していて、今後の発展に貢献することが期待できるかを示したものである。

改めて、これまでのWIDEプロジェクトに対する御理解、御参加、御協力に深く感謝するとともに、これからの活動にも引き続き支援をお願いしたい。

2020年3月8日
WIDEプロジェクトファウンダー
村井純