WIDE

Founder挨拶

WIDE プロジェクト ファウンダー
村井 純
WIDE プロジェクト ファウンダー 村井 純

ごあいさつ

2017年11月に100回を記念するIETFがシンガポールで行われ200回のIETFを見通した議論に参加した。基本的に年3回のペースで行っているIETFは約30年の歴史があるわけだから、約30年先の見通しを議論することになった。

30年かけて構築したインターネットは次の30年でどこへ行くのか。この問いは2018年に30周年を迎えるWIDEプロジェクトに関わった者にも共通の問いとなる。

次への身近な出発点として新たなビデオ信号の発展が有る。我が国でも地上波放送のインターネット再送信の審議が続けられているが、一方では2018年初めのニューイヤー駅伝や箱根駅伝、そして、2月の平昌オリンピックではすでに4K放送を前提とした同時再送信が行われている。Netflixのようなインターネット上のビデオサービスがインターネットトラフィックの主流を占めているところへ、放送再送信での集中型のリアルタイムトラフィックとしての中継などが台頭することにより固定とモバイルのインフラストラクチャへのトラフィックエンジニアリングとしてのインパクトはますます大きくなる。2018年暮れには4KのBS放送が始まり、我が国のビデオトラフィックも複雑化し膨大となる。

インターネット全体のアーキテクチャとしては、CDNやマルチキャストなどの転送プロトコルなどの配信技術の発展と平行に、トランスポートやWEBアーキテクチャなどに関する標準化やサービスの発展が期待できるが、中長期には名前、ID、権利処理を含めた、新しい分散処理の技術体系がビデオトラフィックの解決となる方向に進むだろう。

2016年に施行された官民データ活用推進基本法は法律としてIoTやクラウドコンピューティングを規定して、民間のデータ利用まで踏み込んだ基本法で、プライバシーなどを処理した上で官民のデータを使おうという理念を示している一国の法律として意味がある。WIDEプロジェクトが1990年代後半に行った「インターネットCAR」の研究開発は名古屋での1000台を越えるタクシーでの実験という最終試験を経て、現在のIoTとしてのセンサーデータの収集処理や自動運転への基盤を構築した。様々な海外の学会でこの成果はデジタルデータの利用に関しては評価されたが同時にプライバシーの課題が指摘され始めた。YahooやGoogleによるWebからのデータ処理やその商業価値の創生は膨大なデータ処理からの新しいAIの技術を生み出した。EUでは、この二つの問題、すなわち、個人データを集積的に利用するにあたってのプライバシーの問題、Google、Amazon、Facebook、そしてAppleなどのアメリカ勢によるデータの収集を主な対象としたGDPR(General Data Protection Regulation)のインターネット流通上の規制の議論が進んでいる。一方で、我が国の官民データ活用推進基本法の理念はデータの利活用としている。サイバーセキュリティの議論を含めて、テクノロジーと政策の関係はますます複雑化する。

WIDEプロジェクトの30年の歴史には、これらの複雑なデジタルテクノロジーとデータの構造のすべてが含まれている。大量のストリーム型データの流通、大規模なデータ処理、地球規模の分散処理など、技術の研究開発としてWIDEプロジェクトがその創設から課題としていたテーマがいよいよ重要になる。

WIDEプロジェクトの成果と人材がこれからの30年に画期的な貢献をできるように、プロジェクトの活動への変わらぬ支援をお願いしたい。

2018年3月
村井 純