WIDEの前身はUNIXとそのネットワークを対象とするJUNETのコミュニティであり、80年代の中ごろからJUNETの研究会からWIDEの研究会へと移行したのが起源となる。
高橋徹さんとの出会いは、このころUNIXを扱っていた日本企業のDCL(デジタルコンピュータ株式会社)にいらっしゃったことがきっかけであった。当時のこのあたりのコミュニティは当然のことながら、UNIX「ハッカー」が主流であり、高橋さんのコミュニティへの登場は全く新しかった。
東北大学文学部哲学科美学美術史専攻という話を何度も聞いた。出版と編集へ捧げていたそれまでの人生の話も沢山話してくれた。そのような視点でUNIXや、やがてインターネットを議論してくる高橋さんは、当時珍しかった私より先輩の知識人であり、かつ、吹っ掛けてくる議論は、容赦なく、かつ、高橋さん自身が思いっきり楽しんでいた感があった。
そんな関係なので、高橋さんから教えていただくこと、学ばせていただくことが山ほどあった。
ある日、私は高橋さんにこう言ったことを覚えている。「我々は研究開発に専念するので、高橋さんはビジネスや社会展開に関することを私と組んでやってほしい」。
高橋さんはこの言葉を、私が思った以上に真摯に受け止めてくださって、さまざまな形で展開していただいた。
哲学としてインターネットを捉えていた高橋さんは、世界の中でもファンが多かった。Vint Cerf氏を含め、世界のパイオニアたちとの積極的な交流も日本のインターネットの発展に大きな貢献となった。
高橋さんに残された私たちの使命はますます大きくなっている。
高橋さんのインターネットに対する渾身の姿勢は、いつも私たちを勇気づけてくれたし、これからも私たちの考え方、生き方、そして、未来への挑戦への原点として私たちと共にあり続ける。
高橋徹さんのWIDEコミュニティへの理解、そして、UNIXやインターネットの分野への多大な情熱と愛情と力に改めて心からの敬意と感謝を表しつつ、ご冥福をお祈りします。
2022年12月25日
WIDEプロジェクトファウンダー
村井純