Title: SINDAN-WG 2018年活動報告 Author(s): 北口 善明 (kitaguchi@gsic.titech.ac.jp), 石原 知洋 (sho@wide.ad.jp), 高嶋 健人 (t.taketo1113@gmail.com), 阿部 博 (h-abe@jaist.ac.jp), 淺葉 祥吾 (asaba@jaist.ac.jp) Date: 2018-12-29 1. はじめに SINDAN (Simple Integrated Network Diagnosis And Notification) ワーキング グループは、ネットワーク運用におけるネットワーク状態の把握やその評価手法 の研究開発を目的として2017年7月に設立された。前身となるSINDANプロジェクト は、2013年のWIDE合宿における合宿ネットワーク評価に始まっており、これまで にネットワーク障害点を検出する手法として、ユーザ側からの観測を元に状態を 評価する手法を取り上げ、その評価を重ねてきた。 本ワーキンググループはメンバーによる定期的なミーティングを実施しており、 また、実証実験として、各大学キャンパスおよび各種イベントネットワークにお いて、本ワーキンググループで開発をしているSINDANエージェントの実験運用を 行っている。加えて、WIDEプロジェクトの研究会・合宿においてBoFを開催し、 WIDEメンバーによる開発や議論を行っている。 2. 2018年における活動 以下に、2018年の取り組みをまとめて報告する。 2.1. 無線LAN環境の品質評価手法の検討 クライアント端末からのネットワーク計測によって、無線LAN環境の状態を推測す る手法について検討を進めた。 一般的な無線LAN端末が計測可能な情報とスペクトラムアナライザによる観測状況 の関連性を把握するべく、Interop Tokyo 2018にて無線LAN環境の評価実験を実施 した。Interop Tokyoはのべ10万人を超える来場者を抱えるイベントで、無線LAN 環境の評価を行う場として最適な環境と判断した。計測方法は、会場内に設置し たSINDAN Probe(Raspberry Piを利用したセンサデバイス)とパケットダンプ用 Raspberry Piおよびwispyを利用したノートPCによる無線スペクトラム収集を同時 に実施した。対象とした無線LAN環境は、2.4GHz帯の1ch, 6ch, 11chとして実施し ている。 今回のデータ収集では、会場提供の無線LANがキャプティブポータル環境であった ため、SINDAN Probeでの計測が困難な状況であった。現在、その他の収集データ は解析中で、現在計画中のアクティブ/パッシブによるハイブリッド無線LAN環境 評価手法と合わせて、今後解析を進めることとしている。 前述したように、無線LAN環境の通信品質計測手法として、アクティブ計測とパッ シブ計測を組み合わせたハイブリッド計測を検討している。従来提案してきた多 レイヤにわたるネットワークの機能のアクティブ計測をするとともに、その計測 に並行して無線LANフレームのパッシブ計測を行うもので、実施するアクティブ計 測の各項目ごとにタイムスタンプを記録し、そのタイムスタンプを利用して、収 集したパッシブ計測の無線LANフレームを各アクティブ計測ごとに分類して個々に 解析を行う。 例えば、無線クライアントがアソシエーションに失敗する場合には、1) 認証の問 題、2) 暗号化の問題、3) 基地局の障害、4) アソシエーション要求フレームおよ び認証要求フレームの不達(問い合わせ/応答/ack の欠損)、5) 接続上限数など の基地局の機能上限によるもの等が考えられるが、これらの接続上の問題は、無 線クライアント上のログなどから同定することは難しい。しかし、アソシエーシ ョンの試行を行うアクティブ計測に並行してパッシブ計測を行うことで、具体的 にアソシエーションのどの段階でどのような障害が発生しているか推定すること が可能となる。 本手法により、多レイヤにわたるネットワークの機能・および品質について、上 位レイヤから下位レイヤまでを縦断して測定することが可能となり、障害発見、 および障害時の対応のために有用な情報を提供することができると考えている。 2.2. WIDE合宿/研究会における取り組み 2018年のWIDE合宿では、秋合宿においてセンサデバイスを利用した実証実験を実 施し、camp netの監視に活用した。また、合わせて開催したBoFでは、SINDAN probeによる計測データの可視化や相関分析に関する検討をまとめDICOMO2018シン ポジウムで報告した論文[1]を元に、ネットワーク障害を検出する手法に関する検 討に関して議論を進めた。現時点においては、有効な相関や障害事象を読み取る に至る可視化手法を確立できていないが、2.3節でまとめるネットワークの異常検 知の検討にてデータ分析を継続している。 2.3. センサデバイスを用いたネットワーク異常検知の検討 ネットワーク障害を検出する手法としてネットワーク異常検知に関して検討を進 めた。これまでに用いていたSINDANスクリプトはシーケンシャルな計測としてい たため、到達性がない場合などの計測でタイムアウト待ちが発生すると、1回の計 測にかかる時間が数分に渡る状態であった。そのため、定常的な計測間隔を5分程 度にしか短縮できておらず、また、1回の計測においても最初と最後でネットワー ク状態の変化が発生する可能性を有していた。 そこで、各計測レイヤにおける計測処理を並列化し、数10秒以内で計測可能な実 装に修正した。この修正後のSINDANスクリプトを利用し、ネットワーク異常検知 の可能性に関して検討を進めた。 まず、外乱が少ないネットワーク環境を作成し、無線LAN環境の負荷に度合いを検 出できるのか検証した。簡易的な電波遮蔽環境においてSINDAN Probeを1分おきに 動作させて定常的なネットワーク計測を行い、この計測結果から変化点の抽出を 試みた。無線LAN環境に負荷を変化させるためにiperfを用いた負荷トラフィック を発生させ、変化点の検出にChange Finderを用いている。 検証の結果から、前処理とChange Finderのパラメータチューニングを行えば、 SINDAN Probeのv4rtt router dev(SINDAN ProbeからIPv4デフォルトルータまで のping 10回分の標準偏差の計測結果)からトラフィックの推移の変化を読み取る ことが確認できた。ただし、今回用いたネットワーク環境は、定常的なバックグ ランドトラフィックなどがない環境であるため、一般的なネットワーク環境での 調査が今後必要である。 2.4. クライアントOSにおけるIPv6実装状況調査 昨年度に引き続き、ユーザ視点におけるネットワーク状態評価において、クライ アント毎の実装による影響を排除するため、クライアントOSにおけるIPv6実装状 況の調査を実施し、その結果を報告した[2]。IPv6における自動アドレス設定の実 装に関して精査し、2017年度で利用可能なクライアントOS毎の挙動の差異を明ら かにした。この検証結果を今後の計測手法に活用して行く予定である。 3. まとめ SINDANワーキンググループでは、WIDE合宿等のイベントネットワークにおける評 価実験を通して、ユーザ視点における階層型ネットワーク計測の有効性を評価し ている。今後、無線LAN環境の評価など、解決できていない課題に取り組み、対外 的に成果展開することを目指す。 4. 発表論文 [1] 淺葉 祥吾, 北口 善明, 石原 知洋, 高嶋 健人, 阿部 博, 篠田 陽一: 階層 的ネットワーク計測における計測項目の相関分析, 情報処理学会マルチメデ ィア・分散・協調とモバイル(DICOMO) シンポジウム2018 論文集, pp.1407- 1412, July 2018. [2] 北口 善明, 近堂 徹, 鈴田 伊知郎, 小林 貴之, 前野 譲二: クライアントOS のIPv6実装検証から見たネットワーク運用における課題の考察, 情報処理学 会デジタルプラクティス, Vol.9, No.4, pp.902-922, October 2018.