Title: クラウドコンピューティングの課題に関するワークショップ報告 Author(s): 斉藤 賢爾 (ks91@sfc.wide.ad.jp), 竹井 淳 (takei@wide.ad.jp) Date: 2012-01-17 このメモは、2011年12月に慶應義塾大学にて開催された「クラウドコンピューテ ィングの課題に関するワークショップ」の内容を要約したものである。 ■クラウドコンピューティングの課題に関するワークショップ 場所: −慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (SFC) AV ホール 日時: −2011年12月8日(木) 14:00-17:07 参加者・パネリスト (敬称略): −Urs Gasser (Berkman Center エグゼクティブディレクター) −Rob Faris (Berkman Center リサーチディレクター) −Herbert Burkert (ハーバード大学法科大学院客員教授 / ザンクトガレン大 学 Research Center for Information Law プレジデント) −竹井淳 (インテル株式会社) −新保史生 (慶應義塾大学総合政策学部准教授) −村井純 (慶應義塾大学環境情報学部長・教授) −他、総務省、経済産業省からの代表を含む総勢40名ほど ●概要 慶應義塾大学SFC研究所インターネットと社会・ラボ(以下、SFC インターネット と社会・ラボ)では、現在行われているクラウドコンピューティングそのものに 関する議論ならびに関連の国際政策論議に貢献するべく、ハーバード大学 Berkman Center for Internet & Society(以下、Berkman Center)ならびにトリ ノ工科大学 NEXA Center for Internet & Society(以下、NEXA Center)と協力 し、クラウドコンピューティングのガバナンス体系の課題について共同で研究し ている。 2011年12月8日に SFC で開催したワークショップには、WIDE LENS-WGメンバーを 始め、Berkman Center、SFC インターネットと社会・ラボのメンバーが参加し、 アメリカ、ヨーロッパ、日本におけるクラウドコンピューティングに関わる政策 の現状について話し合った。 Berkman Centerからは、アメリカにおけるクラウド制作に関わる論議の現状、特 に相互運用性まわりの論点について報告するとともに、アメリカ・ヨーロッパ間 のクラウドコンピューティングにおける比較側面を紹介し、学術的パートナーで ある NEXA CenterならびSFCインターネットと社会・ラボとの最新の取り組みの 概要を説明があった。 このワークショップでは、クラウド関連の各国の制度、政策について、アメリカ ならびに日本の双方の視点で実り多い議論が生まれることを目指した。 また、ワークショップの成果は、現在行われているBerkman Centerならびに SFC インターネットと社会・ラボによる、国際的な視点に立った今後の共同研究の基 盤となると期待される。 ●主な発言の要約 ・Berkman Center によるクラウドコンピューティングの社会的研究の初期の成 果は wiki ページにまとまっており、今後の WIDE や SFC インターネットと社 会・ラボとの共同研究の基礎資料となることが期待される。 ・クラウドコンピューティングのインパクトとは、本質的には、コンピューティ ングが今やサービスとして提供されているということである。 ・2020年までに、現在のインターネットユーザを上回る数の新たなユーザがイン ターネットを利用することが可能となり、さらに多くの機械がデータを生成する ことになる。我々の情報空間は劇的にに変わることが予想される。 ・日本における震災(3.11) の経験を通して、クラウドコンピューティングが 社会にとって有益であることが明確に確認された。 ・クラウドコンピューティングを積極的に社会として活用していくために、ス マートな産業を創造する必要がある。 ・日本の現在の個人情報保護関連法は複雑過ぎ、社会がIT環境を活用する上で ルールに従おうとする場合に大きな障害となっている。法執行がもっとも重要な ファクターだとしてもである。 ・セキュリティ/プライバシに関連して、積極的にモバイル今ピィーティングを 活用していくためには、明確でわかりやすく適切なガイドライン、ルールの構築 が必要である。 ・日本は情報を保管する上で、自然災害のリスクを考慮したとしても最も安全な 国のひとつであると言えるが、安全保障関係者の考え方は異なっている。 ・クラウドコンピューティングに関する法的な問題のすべてが新しい問題ではな い。しかし、分散システムと法について、我々にとって既知であること以上のこ とは確かに起こっている。直接、法律に関わるとは限らないが、クラウドにおけ るユーザの保護に関して、国を超えて活用される計算機資源、データの保管場 所、そしてその移動など、現在の国境を基準にした統治概念を適用できないクラ ウドコンピューティングでは、新しい概念を国際的に当てはめていかなければ、 その利点を十分に活用していけないリスクが存在する。 ・データを保護するために、政府は、企業や政府が、データをクラウド上の地理 的に拡散した場所に保存することを求めるべきだろうか。そうした規則を設ける ことは難しいかも知れないが、社会はその方向へと向かうだろう。 ・重要なことは、ビジネスを継続させることである。例えば、医療情報をクラウ ド上で活用できるようにするための困難は、それがビジネスとして成立しにくい ことである。医療情報の活用を通してビジネスに結びつける知恵が必要である。 ・この会合は、よい出発点となった。政府の役割についても、見直しは必要かも 知れない。何にせよ、タイミングは重要である。完全で適切な解決を目指すより も、決断を下した方がよいことは、往々にしてあることである。 -以上-