ICAT NewsLetter Vol.3 part II 1997.12.1

第39回 IETF会議報告


報告者:北野 博之(ICAT事務局)

 期 間:1997年8月11日(日)〜8月15日(金)
 会 場:ドイツ〔ミュンヘン〕Sheraton Hotel

 IETFは年3回行われており、そのうち1回はアメリカ以外で行うとのこと。今回の開催地ミュンヘンはドイツ北部バイエルン州の州都であり、人口100万人程度ののどかな街である。北はオーストリアと国境を接しており、ザルツブルグとはアウトバーンで結ばれており、夏休みであるのと観光地であるせいか街中にはスーツを着た人は少なかった。緯度的にはニューヨーク、北海道と同じである。着いてみると思ってたよりも暑く、最高気温は連日30℃くらいあった。日差しは強いが、湿度が低いせいか日陰は涼しく、屋内は空調がなくても過ごしやすかった。喉は渇くので炭酸ガス入りミネラルウォータが欠かせない毎日だった。


TABLE OF CONTENTS 1. PKIX(Public key Infrastructure(X.509))
1.1 Part1 - X.509 Profile
1.2 Part 2 - Operational Protocols
1.3 Part 3 - Managment Protocols
1.4 Internet PKI
1.5 総括
2. OPENPGP
3.TLSとS/MIME
4. 番外編
5. おまけ
6. 感想

1. PKIX(Public key Infrastructure(X.509))

 ここはX.509証明書をベースとした公開鍵機構についてのWG。昔はPEMのWGのであり、ICATの活動にもっとも近いところである。前回は菊池委員が「PKI:Webベースの証明書とCRLの格納」
 
draft-kikuchi-web-cert-repository-00.txt
について発表したWGでもある。
 PKIXの内容は  でありWGは8月13日14日の2日間に渡って行われた。
 PEMのRFCが1421〜1424まで連番になっていることを考えると、このようなPart分けも妥当であろう。

1.1 Part1 - X.509 Profile

RFC1421と同様に、ここPart1は以下のPartを構成するための標準と位置づけてある。
 X.509v3、X.509v2 CRLの説明から始まり、Subject Name、UCTTimeなどの証明書のField、RSA、DH、DSA等の特許まで記述されている。100ページを越え読み応えがあるが、PKIXに興味がない人でも読んでおきたいドラフトである。
 前回のMeetingから若干Reviceされ、Lastcallを出すということであった。

1.2 Part 2 - Operational Protocols

 CA-ユーザ間、CA-CA間でのデータのやり取りのプロトコルを議論するパートである。オペレーションのプロトコルとしてLDAP以外にもHTTP、E-mailも念頭に置くということ、ReviceされたPKCS#7と#10を使用するとのことであった。9月に出てきたI-D draft-ietf-pkix-opp-ftp-http-00.txt を見てみると、署名された証明書とCRLのファイル名をそれぞれ "anyone.cer"、"any.crl"とし、DER(Distinguished encoding rule)でエンコードして {f, ht}tp://ftp.your.org/pki/id48.cer
{f, ht}tp://ftp.your.org/pki/id48.no42.crl
などしてファイルとして置くだけのようである。
 本筋のI-Dである draft-ietf-pkix-ipki2opp-04.txt ではLDAPのプロトコルに則った追加、変更、検索等を実現しようとしている。
 これら2つのI-Dでは菊池委員が示したI-Dのように、証明書発行要求、破棄要求、有効性確認等の細かいオペレーションについては記載されてない。

1.3 Part 3 - Managment Protocols

 Reviceされた(される)PKCS#7と#10を使い、PKCS#10をPCKS#7で包んで証明書発行要求をするとのこと。
 あと、キーリカバリをサポートするとのこと。

1.4 Internet PKI

 PKCS#7と#10をReviceするとのこと。どうもDSA/DH用に書き換えたいようである。

1.5 総括

 最後にChairのKent氏と IETF Security AreaのDirectorであるJeffrey Schiller氏から総括のコメントがあった。PKIXのdefaultのアルゴリズムをDiffie-Helmann(DH)とDSAにしようというものであった。3. に書いてあるTLSやS/MIMEの話を見ると、IETFは特許の絡んだInternet-draft(I-D)を出させないスタンスのようである。


2. OPENPGP

 PGPのBOF(Birds of Feather)。しきりにMailingListの宣伝をしていた。
 http://www.imc.org/ietf-open-pgp/
を参照とのこと。

 このセッションで話されていたことは主にBOFからWGへ昇格する際に必要なCharter(憲章)の承認であった。

【Charter】

  1. Create a specification that permits encrypting and/or authenticating MIME data.
  2. Defines a format for the MIME data, the algorithms that must be used for interoperability,certificate structure.
  3. Make NO technical compromices based on any government or legistrative policies.
  4. Allows for limited backward compatibility with previous released version.
  5. Any required algorithms with be strong, freely available and "unencuberered", other algorithm allowed.
  6. Interoperability using "strong" algothms with the ability to negotiate and communicate atr any key length is permissible since the pgp certificate must be obtained in advance.

 3.と6.が強調されていたようであるが...

 BOFではCharter作成に関係なくいろいろな質問が出ていた。PGPはプロトコルではなくシステムであるということ。だからSSLやS/MIMEやFirewallの認証などの利用は考えていないとのことであった。また、PGP Ver.5.xではElGamalをサポートするとのこと。楽しみにしていた

  • X.509への対応
  • 楕円曲線暗号の対応
がAgendaで示されたが、これらの詳細がなかったのが残念であった。

 後日、参加者にPGP社からポスターが送られてきた。このポスターにはx.509や楕円曲線暗号などポスター全体が暗号、認証関係のGlossaryになっており重宝している(後日すずきひろのぶさんへ進呈)。


3.TLSとS/MIME

 今回はTLSのWGとS/MIMEのBOFのセッションがなかった。S/MIMEの方は

  • S/MIMEの商標
  • RSAのパテント
の障害があるからである。4月のMemphisでのIETFでは
  • WG憲章の作成
  • RC2のアルゴリズム公開
を要求され、これに従ったそうだ。しかし、今回IETFはRSA自体のパテントまで開放を要求してきた。IETFが終わって9月に入り、S/MIMEのMailingListではRSA社と別グループがDH/DSAをdefaultとし、RSA/RC2はオプションという案を出してきた。11/7にI-Dが出され、WG設立まで至った。

 TLSの方も暗号アルゴリズムのパテントの問題で7月からもめているようで、これが原因でミュンヘンでの開催が中止になったようである。さらに、9月に入ってNetscape社のSSL自体のパテントが成立し、これもIETFとの火種になっているようである。


4. 番外編

 今年度ICATでは昨年度の「統合暗号システムにおける基盤技術の研究開発」の成果物である楕円曲線暗号、国産ハッシュ等を実装中であり、これらを用いた証明書の作成、実験的認証局の立ち上げを進めている。
 しかし、X.509の証明書を作成するためにPCKS#1に習って証明書を作成する場合、署名対象データをハッシュした値の前にアルゴリズム固有のオブジェクト識別子(Object Identifier, OID)をしなければならない。この方法ではハッシュのビット長と署名アルゴリズムの鍵長が近い場合、問題が生じることがわかった。すなわち160ビットのハッシュを使用した場合には署名対象データが約300ビットと倍近くになり、160ビットの楕円曲線暗号では署名できない問題が今回のIETF開催の1週間前に浮上してきた。
 解決方法として鍵長が短い場合には、署名対象データ(OID+ハッシュした署名情報)をもう一度ハッシュして署名アルゴリズムの鍵長に収めるという案を早急に作成した。
 詳細はProposalの原文

 proposal-icat-short-key-cert-00.txt を参照のこと。

 このようにICAT案を作成したものの、セッションで発表するのに必要なInternet draftの提出期限(cut off date)には間に合わなかった。Proposalという形で急遽喋りたいとChair(座長)のSteve Kent氏とのコンタクトするが、ICATのProposalは

  • 発表する時間がない。
  • X.509やPKCSのフレームワークの問題や、それらのGenericな問題ではなく、別々のOIDを持った署名アルゴリズムとハッシュの組み合わせの問題である。これら2つの組み合わせを一つのOIDで表せられれば署名対象データにハッシュのOIDを付加する必要はなくなる。楕円曲線暗号と同様に鍵長の短いDSAを利用したDSAwithSHA-1では問題無く署名ができている。
との理由でRejectされた。しかし、
  • Chairとコンタクトし、Chairに現在のICATの活動を説明できた。
  • ProposalをI-Dへするための貴重なコメントをもらえた。
ことで、今後の活動に十分な資料となった。

 鈴木裕信委員が8月末のCRYPTO97[1]で同じProposalの配布を行った。CRYPTO97では配布を置くテーブルがあり、150部のリーフが会場に来ていた人の手に渡った。9月末になり、公開鍵の仕様を決めているIEEE P1363 WG[2]のChairであるBurt Kaliski氏からコメントを頂いた。コメントの内容は

  • Kent氏同様、署名アルゴリズムにハッシュを一緒に使い、これらを組み合わせたOIDを設定すれば問題は回避できる。
  • IEEE P1363とANSI X9.62[3]でもDSA同様の手法を使った楕円曲線暗号の署名方法が提案された。
ということであった。


5. おまけ

 写真を撮って来られなくて申し訳ないのですが、Kent氏はハリソン・フォード似のイギリス英語を話すかっこいいおじさんでした。しかもゆっくりと喋ってくれて優しい紳士という感じを受けました。一方、Schiller氏は対照的にスーパーマリオ似の陽気でアメリカ英語を話す人でした(しかもかなり早口)。
 今回私はB5サイズのPanasonicのLet's note AL-N2T515J5を持っていったのですが、外国で売られてないらしく、4-5人から話し掛けられました。3000ドルぐらいだと言うと、輸入したいと皆言っていました。ドイツへ行く直前にキーボードが壊れたのもあって、帰国後Panasonicに英語キーボードがあるか確認したところ、きっぱりないと言われました。未だにHome Keyは外れたままです。


6. 感想

 IETFの議論自体はMailing listで話されていることがほとんどで、会場ではI-Dの最終確認とインタラクティブな議論のために集まっているようでした。  初めてIETFに参加した私としては

  • 男の人はほとんどひげをはやしており、Tシャツに短パンであった。
  • 平気で会場の床や廊下に座っている人が多い(私も座りましたが)。
  • 柱のコンセントに平気で突っ込み、電気泥棒を働いている。
  • WGでの発表はプロジェクターではなくOHPで、しかもその場で手書きで説明する人も多い。
  • やたら話し掛けられる。
という状況はカルチャーショックでした。



【注 釈】

[1] 雑誌 "Journal of Cryptology"を刊行しているIACR(International Association for Cryptologic Research)が開催している暗号に関するカンファレンス。 http://www.iacr.org/
[2] IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)で公開鍵暗号の標準を決めているWG。ChairはRSA社のBurt Kaliski氏が勤めている。 http://stdsbbs.ieee.org/groups/1363/
[3]  ANSI(American National Standards Institute)でECDSA (Elliptic Curve Digital Signature Algorithm)の標準を決めているWG。 http://www.ansi.org/

[HOME] [Homepageへ戻る] webmaster@icat.or.jp
Last modified : Fri Oct 2 1:50 JST 1998