代表挨拶
江崎 浩

はじめに
2010年春のWIDE合宿において、新しく代表を指名されました。1988年に設立され、名実ともに我が国のそして世界のインターネットの創成と発展そして普及において中心となってその責任を果たしてきたWIDEプロジェクトの代表という重責であります。WIDEプロジェクトは、創設20年の節目にあたりWIDEプロジェクトの役割と機能、そして組織としての再点検と、次の10年に向かってのその活動の方向性と組織・体制の在り方に関する議論をここ数年に渡って行ってきました。WIDEプロジェクトは、メンバーの年齢構成としては約40歳の多様性を持ちつつ、一方では、関係する領域は従来のコンピュータハードウェア・ソフトウェアや情報通信の領域だけではなく、法律や経済などを含む社会全般に関係する領域で活躍する方々との有機的で創造的な関係が急速に構築されてきています。
WIDEプロジェクトの活動領域が拡大する中、WIDEプロジェクトが目指してきた、『産学連携によって構成される自律的で自由な発想を持った研究者が組織の壁を超え、新しい技術を用いて、「より良い社会」を創造し、かつ各自の自己実現を目指す』を、継続し、さらに発展するためには、新しい体制の構築が必要となります。特に、グローバル組織・社会との関係と政策を含む社会施策との関係は、量・質ともに急拡大しており、これに耐えうる体制の確立が急務であると考えています。
以上のような背景の中、このたびWIDEプロジェクトの代表を仰せつかることになりました。
運営にあたっては、以下の3つを活動の柱とし、具体的な活動方針を、ボード会議や研究会および合宿研究会を通じて、WIDE メンバのみなさんとの議論を行ってきました。
1. 人材の育成
2. 新サービス・新産業の創成
3. グローバル社会の創成
WIDEプロジェクトの重要な特徴の一つは、メンバーの約半分は常に学生であり、また、多くの若手研究者から構成されていることにあります。彼らは、10年後の社会を創造・改革する活動を担わなければならない人財であり、かつ、グローバルな視点を持ち活躍してもらわなければなりません。WIDE プロジェクトは、スポンサーの皆様のみならず、国内外の関係協力組織と協力して、戦略的で効果的な先端的OJT型の教育研究環境の整備と確立を目指さなければならないと考えています。
コンピュータネットワークに関する最先端の研究活動だけではなく、インターネット技術とインターネットアーキテクチャを用いた新産業の創出・創成と、既存産業の効率化・競争力向上への貢献を目指さなければならないと考えております。最近では、IoT(Internet of Things)として、認識されるようになった「コンピュータ以外のディジタル機器」がインターネット空間に接続される世界に関する研究領域は、WIDEプロジェクトが、2000年頃から本格的に取り組んできた研究領域であり、すでに、我々は、IoTが向かうべきグローバルシステムの実現に向けた研究活動に着手しつつあります。スマートな物(Smart Object)が相互接続され、相互作用・協調動作することで、効率的で高機能な、かつ持続可能なスマートなインフラの基礎を今後の10年で確立していくことになるでしょう。まさに、新ラウンドの起動であり、新しいビジネス方程式(Market Standard)への旅の始まりです。
WIDE プロジェクトは、メンバー組織の皆様との産学連携コンソーシアムとして運用されています。特定の研究テーマに拘束されることなく、WIDEプロジェクトメンバーによる自由で自律的な研究活動を可能にしています。WIDEプロジェクトは、企業における「目的基礎研究」でもなく、独創性・独自性を要求する「純粋基礎研究」でもない、いわば「実践的基礎・応用研究」の環境を提供することで、従来の研究組織にない成果を創出してきました。これは、WIDEプロジェクト特有のプロジェクト統治モデルであり、今後も維持・発展させなければならないものであると考えています。
2011年は、IPv4アドレスの枯渇が現実のものとなり、インターネットにとって、大きな節目の年となります。WIDEプロジェクトは、1995年にIPv6に関する研究開発を担う分科会を発足、欧米の研究者とともに次世代インターネットプロトコル(当時はIPng、IP next
generationと呼ばれていた)の研究開発とその技術標準化活動に着手しました。1998年にKAMEプロジェクト(BSD UNIXのIPv6関連参照ソフトウェアの研究開発)およびTAHIプロジェクト(IPv6システムの機能検証と相互接続性検証システムの研究開発)、2000年にUSAGIプロジェクト(LinuxのIPv6関連参照ソフトウェアの研究開発)、2007年にNautilus6プロジェクト(移動通信のためのIPv6関連参照ソフトウェアの研究開発)を発足させ、世界中のIPv6製品の研究開発に貢献しました。また、WIDEインターネット、INTEROP東京ショーネット、AI3(Asian Internet Interconnection Initiatives)衛星ネット、あるいはJGN(Japan Gigabit Network)などの研究開発ネットワークを通じたIPv6技術の実展開に向けたマルチベンダー環境での相互接続性の確立、2000年のIPv6普及・高度化推進協議会(会長:村井純)設立、2008年のIPv4アドレス枯渇対応タスクフォース(代表:江崎浩)設立への貢献など、IPv6の実システムへの導入を具現化するための多様な活動を行ってきました。現在のインターネットに障害をあたえることなく、IPv6の導入を進める最低限の準備は、我々WIDEプロジェクトの関係者の約15年におよぶ努力と、関係諸団体の方々のご貢献とご努力によりほぼ完了しています。本格的で具体的な対応は、決して短時間で完了できることではありません。すべてのICTシステムへのIPv6の導入は、すべてのインターネット関連産業と全産業にとっての重要課題です。これは、インターネットサービスプロバイダだけの問題ではなく、オフィス、自宅そして、インターネット技術を用いたスマートフォンに代表されるデジタルモバイル機器などで問題となることが既に認識されています。エンジニアへのトレーニング、管理・運用手法の確立、サポート業務・体制の確立、課金システム、セキュリティー機能、アプリケーション開発など、すべての領域においてIPv6への対応準備を進めなければなりません。また、特に、新興国における急速なインターネットインフラの構築・普及とインターネットを用いた近代化の推進、また、今後の新しいインターネットの展開は全産業に広がります。IPv4の中央在庫の枯渇により、我々WIDEプロジェクトの責任はますます重要かつ緊急なものとなります。
WIDEプロジェクトは、これまでの活動形態に縛られることなく、21世紀の社会創造を牽引するに資する情報関連の科学技術と人財の育成を実現する2010年代型の新しい活動形態の設計と実装を行い、グローバル社会に対するWIDEプロジェクトの責任を果たすことができるよう努力する所存でございます。
これまでのWIDEプロジェクトの活動にご参画ならびにご支援いただきましたすべての皆様方、組織の方々に感謝と敬意を表しますとともに、ますますのご参画・ご協力・ご指導・ご鞭撻をお願い申し上げますとともに、新領域の開拓に向けて新たにご参加される方々との協調活動を期待しております。
2011年3月
江崎 浩















