WIDE

WIDE 30th Anniversary

Toward the next 30 years

Thirty years have passed since the WIDE project took the first step. With the goal of building a globally distributed processing environment, the technology developed to connect computers to each other is now spreading all over the world as the Internet. The evolution of the Internet will continue and will grow as a platform to connect the world. The WIDE project continues to evolve, embodying the platform that supports the future.

WIDE 30周年記念シンポジウム

国際文化会館 岩崎小彌太記念ホール

■ 13:30~14:00 ご挨拶
WIDE プロジェクトファウンダー 村井 純
WIDE プロジェクト代表 江崎 浩

■ 14:00~14:30 基調講演
「インターネット・WIDE・NTT そして今後」
日本電信電話株式会社 代表取締役社長 澤田 純 氏

■ 14:30~15:00 対談
日本電信電話株式会社 代表取締役社長 澤田 純 氏
WIDE プロジェクトファウンダー 村井 純

■ 15:00~15:15 休憩

■ 15:15~17:30 パネルディスカッション
「The Internet 10年後と30年後」
株式会社 Preferred Networks 取締役 最高技術責任者
奥田 遼介 氏
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長 最高経営責任者
田中 邦裕 氏
ソフトバンク株式会社 最先端技術開発本部 本部長
湧川 隆次 氏
WIDE プロジェクトボードメンバー 国立天文台 情報セキュリティ室 室次長
大江 将史
WIDE プロジェクトファウンダー
村井 純

■ 18:00~20:00 懇親会 樺山・松本ルーム

ご挨拶
WIDE プロジェクト ファウンダー
村井 純
WIDE プロジェクト ファウンダー 村井 純

新しい理想

発端はオペレーティングシステムだった。
ハードウェアとシステムソフトウェアの関係に夢中になった。プログラミングとそれによって指示するコンピュータの動作は、私の目の前のデジタルテクノロジーの無限の魅力の扉を次々と開いていった。コンピュータが繋がって連携し、利用者にあたかも一つのコンピュータであるような幻想を与える分散処理も魅力的だった。負荷分散や耐故障性、そして、コンピュータが勝手に判断して動作する自律分散制御には夢があった。
後にマイクロソフトリサーチを率いることになるRick Rashidのシステム、Rochester's Intelligent Gatewayは、融通の効かない種類の異なるメインフレームのフロントエンドとして洗練されたUIを提供し、バックエンドでメインフレームを無理やり動作させるようなシステムだ。計算するためのコンピュータには全く興味が無かった私が人の役に立つコンピュータの役割に震えるほど興奮したのは、彼の論文に触れたときである。
そんなときにUNIXのソースコードに触れ、その動作を確認するPDP-11やVAX-11を専有することができ、ネットワークプロトコルの研究グループを率いてネットワークオペレーティングシステムの開発を始めることができた。Denis RichieやKen ThompsonなどのCやUNIXの開発者と親しくなれたのも、BSDの開発をしていたBill JoyやKirk McKusickたちと一緒に開発できたのも幸運な時代と人のめぐり合わせだったと思う。

時代といえば、1985年の電気通信事業法の施行は、WIDEプロジェクト誕生への大きな節目となった。1984年から開始したJUNETの構築は当然、社会全体の混乱と躊躇の中からネットワーク時代への試行を意味していたからだ。 JUNETの挑戦を、常時接続の自律分散システムへと展開する議論をしたときに、重要なイメージを共有したことが忘れられない。「世界中のコンピュータが全部つながって、分散システムとして動く」。これがWIDEプロジェクトの始まりの理想像だった。大規模広域分散環境、地球全体がゆるやかな分散システムとして動く。この理想に向かってスタートを切ったのがWIDEプロジェクトであった。

あれから30年、WIDEはその理想に向かってできることは、なんであれ挑戦してきた。デバイスやシステムソフトウェアの開発はもちろん、アプリケーションやオペレーションの発展にも注力してきた。IETFやISOCに積極的な役割を果たし、開発した技術が新しい社会基盤となるための活動も続けてきた。
WIDEプロジェクトが地球規模の大規模広域分散環境の構築と実証に、大きな成果を積み上げてきたことは事実である。この理想を理解し、支援して頂いた方々、なによりこの理想を共有し力を合わせてきた仲間たちに心からの感謝と敬意を表したい。
しかし、成就した成果は、次の時代のプラットフォームとなる。プラットフォームが発展すれば、そこで発展する技術は高度化する。高度化したサービスはより強いプラットフォームとより高度な技術を要求する。
大規模広域分散環境は、常に新しい驚きと新しい困難を生み出す環境である。成就した環境があるからこそ、次の30年の理想を語ることができる。理想を語ることができれば、新しい成果を成就することができる。
WIDEプロジェクトは今新しい理想を語る。

 
WIDE プロジェクト代表
江﨑 浩
WIDE プロジェクト代表 江﨑 浩

インターネットを前提に再設計する段階へ

お陰様をもちましてWIDEプロジェクトの発足から30年が経ちました。
技術だけでなくこの世界を取り巻く社会や環境も大きく変化し、WIDEプロジェクトが目指した「インターネットが前提」の社会が、いよいよ起動しつつあり、デジタル社会の新しい進化が始まりつつあります。めざましく進歩・進化するデジタル社会の中、皆様と常に新しい挑戦を続け、試行錯誤を繰り返しながらも一歩一歩前進することができたのは、活動を支えてくださった皆様のご協力・ご支援の賜物であると深く感謝しております。

インターネットは、定冠詞のTheと大文字の"I"を用いて、The Internetと表記します。世界でただ1つのデジタルネットワークで、国境を越え、地球上のすべてのヒトとモノがデジタル情報を自由に送信・受信・利用・加工する環境を実現するからです。インターネットは、これまでの物理的なモノの存在を前提にした社会経済活動を、デジタルで置き換え、新しいルールに基づいた「サイバー・ファースト」な社会経済へと進化しつつあると捉えています。これまでのインターネットは、世界中の「人」をデジタルメッセージで結ぶthe systemでしたが、いよいよ、世界中の「モノ」を結ぶthe systemという新しい扉を開きつつあるのではないでしょうか。物理空間とサイバー空間の融合は、現実の拡張、すなわちARやVRだけではなく、IoT、さらに、人工知能と共存することによる、人類の能力の拡張へと向かいつつあるのではないでしょうか。
すなわち、サイバー空間に閉じこもっていたインターネットは、すべての物理空間へと拡張し、IoTやビッグデータと呼ばれる新しいエコシステムを形成しつつあり、インターネットの「新たな覚醒」と呼んでもよいのではないでしょうか。

すべての生命体は、遺伝子という設計図を持っており、この設計図にしたがって個体が形成される。遺伝子は、交叉を続けることで多様性を拡張しながら、一方で淘汰によって収斂されながら、新しい設計図を創造・継承しています。
インターネットの遺伝子は、IoTやSociety5.0で示されている異業種間連携によるデジタルイノベーションの段階へと進化・覚醒しつつあると捉えることができるのではないでしょうか。このような方向性は、WIDEが10周年の時のIPv6の推進、20周年の時のすべての産業領域へのインターネットの浸透に合致しており、30周年を迎え、すべての社会・産業活動を「インターネットを前提に再設計する」段階を目指していくことになります。
インターネットの遺伝子は、独自の技術で閉じたエコシステムを形成していた排他性を持ったサイロ(Stove&Pipe)を、共通の技術を用いて相互接続し、1つのシステムにすることを目指します。したがって、インターネットの遺伝子にとっての最大の対立遺伝子は、「サイロ化」「ブロック化」であり、保護主義的な政策との摩擦を発生させる場合が少なくなく、共存のための対話が重要となります。国を含むすべての組織間(これをマルチステークホルダと呼ぶ)での自由な情報流通の実現が、インターネットの遺伝子が生き残るために重要で必要な要件となるのです。
WIDEプロジェクトのメンバー皆様には、WIDEプロジェクトを最大限に活用していただき、最先端のデジタルエコノミーを牽引する最新の技術・ビジネスの動向と現状を把握し、ますます加速するインターネット革命を生き抜くに資する、叡智を発見・体験し、これを具現化し、自組織と社会の発展に貢献する機会と捉え、一緒に活動できれば幸いでございます。