Title: 2015年 mawi-wg活動報告書 Author(s): 長 健二朗 (kjc@iijlab.net) Date: 2016-01-15 1. MAWI WG について MAWI(Measurement and Analysis on the WIDE Internet)ワーキンググループ は、ネットワークデータの収集と解析を研究対象とした活動を行なっている。 MAWI WGではWIDEプロジェクトの特徴を活かした研究をするため、 「広域」「多地点」「長期的」の三つの項目に重点を置いたトラフィックの計 測・解析を行っている。 広域バックボーンでのデータ収集はバックボーンを持っているWIDEだからでき る事である。分散管理されるインターネットの状態を把握するためには、多地 点で観測したデータを照らし合わせることが欠かせない。また、長期的にデー タを収集し蓄積するために、ワーキンググループとしての継続的な活動が役に 立つ。 計測技術はほとんどの研究分野で必要となるため、MAWIワーキンググループは WIDE内の他のワーキンググループと連係をとりながら活動をしている。 また、グローバルなインターネットの挙動を把握するために、海外の組織とも 積極的に協調して研究活動をしている。 WIDEプロジェクトは多くの国際協調活動を行なっているが、近年は計測研究の 重要性が増している。これは、インターネット研究において、グローバルなレ ベルでその挙動を把握する必要性と難しさが認識されてきたためである。 また、これまで行ってきたデータ解析研究は、ビッグデータ解析との共通点が 多く、今後より広い分野への応用が期待されている。 2. MAWI WG 2015年度の活動概要 2.1 WIDEトランジットトラフィック概要 MAWIワーキンググループでは、トラフィックを多次元集約するagurimツール を開発し、2013年2月よりWIDEのトランジット回線のトラフィックを継続的に 記録している。 2015年5月には、ツールをオープンソースとして公開し、同時 に、IPアドレスを匿名化したWIDEのトランジット回線のトラフィックデータを Webインターフェイスでブラウズ可能にした。 これによって、ネットワーク運 用者や研究者が、バックボーンのトラフィック状況の詳細をブラウズできるよ うになり、トラフィック情報の共有や研究の促進に繋がることを期待している。 2015年全体を通して、1日平均のトラフィック量は約300-800Mbps、パケット量 は50-2000kpps程度である。 個別の集約フローを見ると、/16程度に集約されたネットワークに加えて、いく つかのホストが識別されている。 (wide-memo-mawi-agurim2015-00.pdf 参照) 2.2 ブロードバンドトラフィックの収集と解析 トラフィック量を把握することは、今後を予想する上で、また技術やインフラ への投資を考える上で欠かせない。 なかでも、トラフィックの増加率は長期 的な計画を立てる際に重要である。 日本国内のインターネットのトラフィック量の集計は、WIDEのメンバーが中心 になって、国内ISP6社ならびに総務省の協力を得て、2004年から継続的に行わ れている活動である。 今年もブロードバンドトラフィック量は着実に増加していて、それに伴い全体 のトラフィック量も増えている。 ブロードバンド契約数はほとんど増えていないので、契約あたりのトラフィッ クが増えていて、ビデオコンテンツなどによってコンテンツのボリュームが増 加していることがうかがえる。 また、スマートフォンなど利用デバイスの多様化がクラウドベースの多様なサー ビスの普及を促進していることも要因であろう。 さらに、今年は大手コンテンツ事業者が相次いで定額制音楽配信サービスや定 額制ビデオ配信サービスを始めていて、聞き放題や見放題のサービスが定着す れば、今後さらにトラフィック量が伸びていく事が予想される。 (wide-memo-mawi-traffic2015-00.pdf 参照) 2.3 NECOMAプロジェクトによるデータ収集と解析 2013年6月より始まったNECOMAプロジェクトは「日欧協調によるマルチレイヤ 脅威分析およびサイバー防御の研究開発」に取り組んでいる。 そのなかでも、 サイバー防御に必要な多様なデータ収集とその統合解析の部分は、MAWIの活動 を拡張する形で実施している。 トラフィック情報収集に関しては、これまでのトランジット回線のパケットト レース収集に加え、いくつかの拠点においてパケットトレースやフロー情報の 取得環境の整備を行ない、10GbEリンクのモニタリング環境も構築している。 また、複数のDNSサーバにおけるDNSクエリの収集や、ダークネットの監視など の観測基盤の整備構築も行なった。 また、これらのデータへのアクセスを共同研究者に提供すべく、RESTとJSONを 使ったAPIの設計および実装を進めている。 データ解析に関しては、膨大なデータを横断的に解析できるよう、Hadoopクラ スタを構築して、解析ツールの開発を行なっている。 2.3 その他の国際連係 今年度は、MAWI WGとしての国際連係の活動は行なわなかったものの、研究者 レベルの交流は継続しており、先述のNECOMAプロジェクトを通したEUチームと の協調も行なっている。 また、2015年10月28-30日に、計測分野のトップコンファレンスである ACM Internet Measurement Conference (IMC)を東京で開催した。 組織委員会は、福田 (NII)、長 (IIJ)、鈴木 (慶應義塾大学)、Fontugne (NII)、田崎 (東京大学)などWIDEのメンバーが名を連ねている。 http://conferences2.sigcomm.org/imc/2015/ 3. まとめ インターネットの研究において、計測はますます重要視されてきていて、国際 協調の機会も増している。 そのような状況のなかで、WIDEの計測活動は、グローバルな視点を持った継続 的な計測活動として国際的にも認知されてきている。 今後は、これまでに築いた関係をベースに、さらに協調の幅を広げると同時に、 具体的な成果を出す努力をしていく。