iCAR WG 2014 年度活動報告 佐藤雅明 (saikawa@sfc.wide.ad.jp) 和泉順子 (mizumi@hosei.ac.jp) 塚田学 (tsukada@hongo.wide.ad.jp) WIDE iCAR WG の活動のサマリを述べる。 1. はじめに インターネット自動車WG (以下 iCAR WG)では、これまでに移動体通信技術の開 発とその実験環境の構築、実社会での実証実験への参加活動および研究成果の 標準化活動を行ってきた。 本年度は、 (1)プローブ情報システムをベースとした新たなサービス基盤に関する議論、 (2)プローブ情報システムの匿名性・ セキュリティなどに関する研究、 (3)プローブ情報システムのサービスアーキテクチャの分類、 (4)関連する標準化活動と整理、 (5)自動車ネットワーク用性能評価・分析ツールの開発、 (6)自動走行を支援する協調型ITSに関する研究 ITS と通信に関わる新しい社会基盤の構築・検証・整理などが活動内容であった。 以下にこれら 6つの活動を概説する。 2. iCAR WG 2014 年度の活動 2.1. プローブ情報システムをベースとした新たなサービス基盤に関する議論 自動車の持つデータを集約して統計的処理等を施すことで価値ある情報を生成 し、生成した情報を、インターネット等の情報通信技術を活用して提供を行う プローブ情報システムは、各国で開発・展開が行われている。日本では、自動 車メーカを中心として世界に先駆けた普及展開がおこなわれたが、既存の自動 車テレマティクスの延長上に位置付けられていることから、事業者間の情報相 互利用に関してはあまり進んでいない。一方、欧州では地理的な条件から国を 横断するプローブ情報システムの情報相互利用に関する需要が高く、欧州ITSア クションプランに基づく統一的な規格を模索している。 また、従来のテレマティクス機器に比べ安価にプローブサービスが実現可能な スマートフォン等の携帯電話やPND等を活用したプローブ情報システムが欧米を 中心に普及しており、こうした動きは、今後のプローブ情報システム市場へ大 きな影響を与えると予想される。 次世代型道路課金システムとして注目されているautonomous Electronic Fee Collection (EFC)も、プローブ情報システムとの融合が期待される分野である。 シンガポールで現在普及している渋滞解消のための道路課金システムである ERPについても、autonomous EFCが検討されていることから、autonomous EFCの ためのGNSS/CN OBUを活用したバスサイネージシステムの構築と実証実験をシン ガポール国立大学にて実施し、その成果をITS世界会議などにおいて発表した。 2.2. プローブ情報システムに関連するプライバシ情報の制御 プローブ情報システム構築の際にプライバシ・セキュリティを議論する上での 必要事項の明確化、要件整理などを運用管理面での対応も視野に入れて整理し、 国際標準化提案要素としてまとめた。ISO/TC204/WG16 にて我々が提案している ワークアイテム「NP 16461:Intelligent Transport Systems -- Criteria for Privacy and Integrity Protection in Probe Vehicle Information Systems」について、ISOの各国の専門家との協議をおこなった。 プローブ情報システムでは,自動車の位置と時刻を含む各種のセンサ情報を収 集することが前提となるが,殆どのシステムは多数の自動車情報を集約・統計 処理をすることを前提として構築されている.また,一つ一つの情報は,自動 車のセンサが計測した値であり,通常の利活用の範囲であれば,個々の情報の 持つプライバシへのリスクは大きく無い.また,前述のように,プローブ情報 システムは新しい産業分野・未来の情報社会の新しい情報基盤として,社会に 価値ある情報を提供するという役割があり,この役割を十分に果たすことが可 能なバランスの良い現実的な匿名によるプライバシの保護が求められる.した がってプローブ情報システムにおける匿名性は,技術的・概念的な意味での 「厳密な」匿名性ではなく,社会一般的に受け入れられる匿名性を採用するこ とが妥当である。 今年度は、こうした標準のベースとなるフレームワークに関して、ISOの標準化 会議においてコンセンサスを形成すると共に、各種カンファレンスやワークショップ において発表をおこない、標準化動向の周知と各国への呼びかけをおこなった。 2.3. プローブ情報システムのサービスアーキテクチャの分類と整理 既存プローブ情報システムから収集されるプローブ情報を共有し有効活用する ことを目指し、定義分類が曖昧なままであったプローブ情報システムのサービ スアーキテクチャの分類を議論した。成果として、議論の結果をベースとし、 2012年10月に開催されたISO/TC204/WG16 モスクワ会議にて、新規作業項目 (Preliminary Work Item:PWI)として 「Intelligent Transport Systems – The Service Architecture of Probe Vehicle Systems」が承認された。 その後、標準化対象と作業範囲の絞り込みをおこない、今年度は投票の結果、 賛成多数と参加国5カ国が登録され、New Proposal:NPとしての登録がおこなわ れた。今後は、先行する標準や、プライバシに関する前述のフレームワークの 合意などを踏まえつつ、各国・地域のプローブ情報システムの網羅的な調査を おこないドメインの整理をおこなっていく予定である。 2.4. 関連する標準化活動 スマートフォンやPortable Navigation Device(PND)によるITSの標準化 をおこなっているISO/TC204/WG17においては、国際専門家、および国内分科会長 を本WGメンバが務めており、インターネット技術やアーキテクチャとの整合につ いての議論をおこなっている。WG17では、車両情報バスと各種機器の接続ポイン トとなる「Vehicle ITS Station Gateway(V-ITS-SG)」の標準化を目指してお り、数回に渡る議論の結果、V-ITS-SGに関する新たなJWGを自動車メーカ主導の ISO/TC22と共同で立ち上げる事となった。V-ITS-SGの標準化により、スマート フォン等が今後今迄以上に用意に車両情報を活用する事が可能になると考えら れ、引き続き議論の趨勢を注視する必要があると共に、インターネットとの親和 性確保やプライバシ、セキュリティ等に関する貢献が期待されているためicar WGとしても協力していきたい。 2.5 AnaVANET:自動車ネットワーク用性能評価・分析ツール 自動車ネットワークのためのネットワークプロトコルは、MANET、IPv6 Mobilityなど数多く提案されている。 しかし、多くはコンピュータ・シミュレーションなどによる評価が行われているため、 フィールド実証実験による性能評価は数少ない。自動車ネットワークの性能測定では、 帯域、往復遅延(RTT)、Jitter、パケット到達率 などの通信性能をホップ数、スピード、地理位置、車間距離などの地理位置要素と関連付けて計測することが望ましい。 しかし過去の研究で利用されるping6やiperfなどのエンドノード による計測では問題があった。 AnaVANETは、送信者から受信者へUDP、TCPまたはICMPv6のトラフィックを生成している間、 各ルータでtcpdumpとGPS logを記録し、実験後に回収された記録を処理す ることで、実験結果を生成する。実験結果として、Google Maps上で確認できるウェブUIと Gnuplotによるグラフを生成する\footnote{http://anavanet.net/}。 2.6 自動走行を支援する協調型 ITS  協調型ITS(Cooperative Intelligent Transportation Systems)は複数のノードが共通の目的のためにタスクや情報を共有するという協調システムの考え方をITSへと導入したITSのサブシステムです。自動走行は自律型システムを基本にしながら、協調システムを統合することによって実現されることが想定されており、以下の講演では主に2020年頃の協調型ITSの展望を紹介しました。 2. おわりに 2014年度のiCAR WG の研究活動は、スマートフォンなどの普及を考慮して、プ ローブ情報システムをベースとしたITSに依らない新たなサービス基盤について の議論を立ち上げると共に、これまで同様標準化団体への提案等を通して実社 会のニーズを反映した分野への貢献をおこなった。今後も本WGでは開発した技 術の実社会への反映を考慮し、社会全体の利益に資するような研究開発を目指 していきたい。 [Publish, Presentation, workshop] Publish - 佐藤 雅明, “インターネットと自動車情報の融合”, コンピュータソフトウエ ア, Vol.31, No.3, pp. 17-31, July 2014 - 佐藤 雅明, 村井 純, "スマートフォンを活用したプローブ情報システムの構 築", 自動車技術, Vol. 68 No.2, pp.69-76, February, 2014 - Yasuhito Tsukahara, Nahuel Matias, Ryota Hiura, Takeshi Fukase, Kyoko Oshima, Masaaki Sato, Kazunori Sugiura, “Design and Implementation of location-aware contents distribution platform utilizing precise probe vehicle data”, Proc. of ITS World Congress 2014, September 2014 - Tetsuya Adachi, Masaaki Sato, Ryota Hiura, Kyoko Oshima, Takeshi Fukase, Takuma Okazaki, “Value Added services of the GNSS/CN based Road Pricing System”, Proc. of ITS World Congress 2014, September 2014 - Masaaki SATO, Kazunori Sugiura, "Location-aware contents distribution platform based on Probe Vehicle Systems", Proc. of ICMU2014 Singapore, January 2014 - Manabu Tsukada, José Santa, Satoshi Matsuura, Thierry Ernst and Kazutoshi Fujikawa, "AnaVANET: an experiment and visualization tool for vehicular networks", 9th International Conference on Testbeds and Research Infrastructures for the Development of Networks & Communities (TRIDENTCOM 2014), Guangzhou, China, May 2014 - Manabu Tsukada, José Santa, Satoshi Matsuura, Thierry Ernst and Kazutoshi Fujikawa, "On the Experimental Evaluation of Vehicular Networks: Issues, Requirements and Methodology Applied to a Real Use Case", EAI Endorsed Transaction on Industrial Networks and Intelligent Systems, December 2014. Presentation, workshop - Masaaki SATO, "ISO/TC204/WG17 standardization activity", TC204 Sympposium, Suntec exhibition center, Singapore, December 2014 - Masaaki SATO, ”Big data of vehicles, location-aware service platform based on vehicle data”, Intel Asia Innovation Summit 2014, Taipei, Taiwan, November 2014 - Masaaki SATO, Kazunori Sugiura, "DEMO: Location-aware contents distribution platform based on Probe Vehicle Systems", ICMU2014 Singapore, January 2014 - 塚田学, "自動走行を支援する協調型 ITS 2020",進化適応型自動車運転支援システム「ドライバ・イン・ザ・ループ」研究拠点形成 第1回 部門研究会, 京都, 2014年12月 - 塚田学, "協調型ITSは自動走行を可能にするか?!", インターネットITS協議会 企画/技術委員会勉強会, 東京, 2014年10月