Title: 2012年 mawi-wg活動報告書 Author(s): 長 健二朗 (kjc@iijlab.net) Date: 2013-01-18 1. MAWI WG について MAWI(Measurement and Analysis on the WIDE Internet)ワーキンググループ は、ネットワークデータの収集と解析を研究対象とした活動を行なっている。 MAWI WGではWIDEプロジェクトの特徴を活かした研究をするため、 「広域」「多地点」「長期的」の三つの項目に重点を置いたトラフィックの計 測・解析を行っている。 広域バックボーンでのデータ収集はバックボーンを持っているWIDEだからでき る事である。分散管理されるインターネットの状態を把握するためには、多地 点で観測したデータを照らし合わせることが欠かせない。また、長期的にデー タを収集し蓄積するために、ワーキンググループとしての継続的な活動が役に 立つ。 計測技術はほとんどの研究分野で必要となるため、MAWIワーキンググループは WIDE内の他のワーキンググループと連係をとりながら活動をしている。 また、グローバルなインターネットの挙動を把握するために、海外の組織とも 積極的に協調して研究活動をしている。 WIDEプロジェクトは多くの国際協調活動を行なっているが、近年は計測研究の 重要性が増している。これは、インターネット研究において、グローバルなレ ベルでその挙動を把握する必要性と難しさが認識されてきたためである。 また、これまで行ってきたデータ解析研究は、ビッグデータ解析との共通点が 多く、今後より広い分野への応用が期待されている。 2. MAWI WG 2012年度の活動概要 2.1 ブロードバンドトラフィックの収集と解析 トラフィック量を把握することは、今後を予想する上で、また技術やインフラ への投資を考える上で欠かせない。 なかでも、トラフィックの増加率は長期 的な計画を立てる際に重要である。 日本国内のインターネットのトラフィック量の集計は、WIDEのメンバーが中心 になって、国内ISP6社ならびに総務省の協力を得て、2004年から継続的に行わ れている活動である。 ブロードバンドトラフィックは、利用者のダウンロードが増加を続けているの に対し、アップロードは減少傾向にある。これは、ビデオコンテンツ等の 利用がP2Pファイル共有からウェブサービスへ移行していることが原因だと推 測できる。 しかし、過去にもブロードバンドへの移行やP2Pファイル交換の出現で大きくト ラフィック傾向が変わった事を考えると将来の予測は難しく、地道な計測活動 の継続が必要である。 (wide-memo-mawi-traffic2012-00.pdf 参照) 2.2 CAIDAおよびCASFIとの共同研究 CAIDAとWIDEプロジェクトは、2003年度から計測に関する包括的な共同研究を 行なっている。 2008年からは韓国のCASFIチームも交えたワークショップを行っ ていて、今年度は2012年8月1-2日に第5回CAIDA-WIDE-CASFI計測ワークショップ をCAIDAで開催した。 CAIDAからはリーダーのkc claffy他5名、CASFIからはSue Moon他5名が、WIDE からは4名が参加し、それぞれのチームからの発表に加え、今後の共同研究に 関して議論を行った。 また、それに合わせて、慶應義塾大学の空閑洋平が2週間CAIDAに滞在し、トポ ロジー解析の共同研究を行った。 ワークショップの内容に関しては、以下のサイトを参照されたい。 http://www.caida.org/workshops/wide-casfi/1208/ 2.3. ENS-Lyonとの共同研究 WIDEは、フランスENS-LyonのAbry教授のグループと、2010年から2年間の計 測とセンサーネットに関する共同研究を行っていたが、成果が認められて共同 研究が2013年3月まで1年間延長された。 本共同研究では、異常検出やアプリケーションタイプの同定等のトラフィック 解析手法を、定量的に相互比較可能なフレームワークを構築し、様々な手法の 比較を進めている。また、この比較解析結果を公開し、他の研究者がベンチマー クとして利用できるようにしている。 今年度のワークショップは、2012年5月21-23日にENS-Lyonで、10月24-26日に は国立情報学研究所で開催した。 また、共同研究の一貫として、慶應義塾大学の加藤碧が、2012年9月4日から 10月4日までの1ヶ月間、ENS-Lyonを訪問した。 ここでは、WIDEで開発中のネットワークトラフィックを集約フローとしてモニ タリングする技術に関して、情報量圧縮の視点からの評価手法について研究を 行った。 本共同研究は2012年度で終了となるが、多くの成果[1,2,3,4,5]を出すことが できた。 今後とも協力関係を継続していくつもりである。 [1] Y. Himura, K. Fukuda, K. Cho, P. Abry, P. Borgnat, H. Esaki. Synoptic Graphlet: Bridging the Gap between Supervised and Unsupervised Profiling of Host-level Network Traffic. To appear in IEEE/ACM Transactions on Networking. 2013. [2] Yosuke Himura, Kensuke Fukuda, Patrice Abry, Kenjiro Cho, Hiroshi Esaki. Characterization of Host-level Application Traffic with Multi-scale Gamma Model. IEICE Transaction on Communications, Vol.E93-B, No.11. November 2010. [3] Guillaume Dewaele, Yosuke Himura, Pierre Borgnat, Kensuke Fukuda, Patrice Abry, Olivier Michel, Romain Fontugne, Kenjiro Cho, Hiroshi Esaki. Unsupervised host behavior classification from connection patterns. International journal of network management. Vol.20(5), pp317-337. John Wiley & Sons, Ltd. September 2010. [4] Pierre Borgnat, Guillaume Dewaele, Kensuke Fukuda, Patrice Abry, Kenjiro Cho. Seven Years and One Day: Sketching the Evolution of Internet Traffic. IEEE INFOCOM2009. Rio de Janeiro, Brazil. April 2009. [5] Guilaume Dewaele, Kensuke Fukuda, Pierre Borgnat, Patrice Abry, Kenjiro Cho. Extracting Hidden Anomalies using Sketch and Non Gaussian Multiresolution Statistical Detection Procedures. ACM SIGCOMM2007 LSAD Workshop, Kyoto Japan. August 2007. (wide-memo-mawi-katoon-cnrsjsps2012-00.pdf 参照) 3. まとめ インターネットの研究において、計測はますます重要視されてきていて、国際 協調の機会も増している。 そのような状況のなかで、WIDEの計測活動は、グローバルな視点を持った継続 的な計測活動として国際的にも認知されてきている。 今後は、これまでに築いた関係をベースに、さらに協調の幅を広げると同時に、 具体的な成果を出す努力をしていく。